シミステツ

ある船頭の話のシミステツのネタバレレビュー・内容・結末

ある船頭の話(2019年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

船頭のトイチは渡し舟を漕ぐ日々。上では橋が建設中。橋ができたら便利になるのか。効率・利便への問いかけ。時代の流れに抗わない、怒りを示さないトイチは素敵だけれど、それでも葛藤を抱えて脳内にいろんな声が流れてくるシーンは印象的だった。橋という「便利」とされているもの、人々の渇望するものが出来上がるとなった時に、そこの対局・代替にいる人間として、自分は人々の役に立っているのか?という思いや卑しさが出てきてしまうのはとても理解できる。
「役に立たないものはみんななくなっていくんだよ」

「あのさ、船頭さん、孤独って字知ってる?」
「孤独の孤って字は狐って字に似てるんだよ」

皆殺しされた一家の中で命からがら逃げてきた少女。起き上がってからも一言も発せず、交わる様子もない。記憶がない少女。名前はお風。

船頭と風。風は川に変化をもたらす。風向きを変える。少しの風で世の中は変わってゆく。徐々に二人の関係性が溶けていくさまが愛おしかった。橋が出来上がるまでのモラトリアムのようなもの。

諸行無常と輪廻転生。始まりと終わり。すべて物事には終わりがあるもの。移り変わってゆくもの。変わりゆく中にこそ、美しさがある。儚さがある。魂がある。

「私は橋よりホタルがいい」

「何か新しいものを求めたら、古いものは消えてゆく」

「人間出鱈目が一番だ」

「人がなんで生まれ変わるか知ってるか?いくつもの人生を重ねないと、人は成長しないからだ」

『パリ、ジュテーム』や『リミッツ・オブ・コントロール』でも映像を手がけたクリストファー・ドイルの映像が綺麗。白鷺が飛ぶシーンは美しかった。