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シネマ歌舞伎 廓文章 吉田屋のtubameのレビュー・感想・評価

4.0
平成21年の公演をシネマ歌舞伎化。
放蕩から勘当された若旦那・伊左衛門(仁左衛門)が恋人の花魁・夕霧(玉三郎)を見舞いに遊郭の吉田屋を訪れて…というお話。


本作も当代仁左衛門の当たり役の一つ。何度観てもハッピーな気持ちになれる大好きな演目だ。
数多ある歌舞伎狂言の中では最初期と言ってよい古いもので、話の筋どうこうよりは華やかな雰囲気を楽しむ演目だが、おおらかな味わいの中に関西歌舞伎特有の細やかな人情が織り込まれていてシンプルながら面白く、見飽きない。


仁左衛門さん演じる伊左衛門がま~愛嬌があって可愛らしいんだなあ。
顔を隠していた袖をばっと開いて「わしじゃわいのー」って言う辺りからずっと可愛い。現実には絶対存在しない絵に描いたような可愛い男である。
吉田屋の人々がお金もなく紙衣まで着ている伊左衛門(冒頭では不審者と間違われる)を持て囃して優しく迎えるのも何だか納得できるような。わかる、わかるぞ。
それでいて若旦那らしい上品さと、色気も併せ持つ魅力的な人物造形なのが、さすが。


名前だけ出てきながら全然姿を見せず、後半に満を持して登場する玉三郎さんの夕霧もまるで人形みたいな信じられない美しさで、待たされた分だけより感動してしまう。伊左衛門と並ぶとまさに浮世絵。


悪人が誰もいない、理想郷の様な優しくて華やかな世界。ただただ癒された時間だった。
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