東京キネマ

赤い闇 スターリンの冷たい大地での東京キネマのレビュー・感想・評価

4.0
最近、この映画の存在を知りました。どうせ、ホロドモール(強制餓死政策)もニュアンス的な扱いなんだろうと思っていたのですが、正面切って描いています。ちょっと驚きでした。何とかウクライナの真実を暴きたいと思った記者のガレス・ジョーンズは単身モスクワに乗り込み、在モスクワのニューヨークタイムズの女性記者エイダにこう言われます。 “あのナチを倒すには共産党に頼るしかない。自由なベルリンを取り戻す。新しい未来を作るのだ” つまり、おそらく、当時の西側ジャーナリストは、あのナチと戦えるのはスターリンだけだし、ソビエト国内に色々と問題はあるだろうが、ヨーロッパの救世主になるかも知れない、という期待でソビエトのプロパガンダに付き合ってあげていたのだ、という流れです。

なんかこれ、どうも私は納得行かない。私は、むしろ逆だったのじゃないかと思うのです。「もし、1939年にヒトラーが死んでいたら、おそらく第二次世界大戦最大のヒーローになっていただろう」と、ある評論家が言ってましたが、1930年代はスターリンの大粛清の時代、その中には、ウクライナ化を指導したソビエト国内の政治家や知識人も大量に粛清されています。なので、当時の最大の恐怖はヨーロッパの赤化です。1939年、亡命ウクライナ人も沢山居たポーランドにナチスが侵攻したとき、最初ウクライナ人は解放軍だと喜んだという話もあるくらいです。

ナチスの恐怖は、ドイツ国内ではいざ知らず、世界的な人口に膾炙するようになったのは、1939年の侵攻以降です。(チャップリン『独裁者』の撮影も1939年9月からです)それまで、赤化の恐怖からヨーロッパを守ってくれそうな唯一の国は、期待も込めてナチスドイツだけだと思っていた筈。なので、このボタンの掛け違いからスタートすると、多くの西側ジャーナリストは共犯者で、
頭のおかしなウェールズ人ジャーナリスト一人だけがナチ攻撃の邪魔をしたのだ、という文脈になってしまうんではないかと思うのです。

この映画、ホロドモールを歴史の常識として学ぶという効果はあるかも知れませんが、しかしながら、これはどう考えても現在進行形の例の国の話と恐ろしい程似ているので、そういった暗喩として捉えている評論があるかなあ、と映画レヴューをできる限り拾い読みしてみたのですが、皆無でした。私にとってはこっちの方が恐ろしいのですが。。。
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