てつこてつ

殺人鬼を飼う女のてつこてつのレビュー・感想・評価

殺人鬼を飼う女(2019年製作の映画)
3.2
これはまたクセが強く評価が難しい作品。
まさかの中田秀夫監督作品。昨日見た「“それ”がいる森」と同じ監督作品とは到底思えぬ程、テイストが違う。

原作は角川ホラー文庫だが、R-18指定も納得の濃厚で倒錯的な性描写に圧倒されてしまう。これは、一般女性が見たら、最初の15分で視聴を止めてしまうのではないかと思うほど、男性目線に偏り過ぎ。原作者の大石圭は男性だが、驚くべきは脚色は女性が手掛けているという事実。

「殺人鬼を飼う女」というタイトルから、文字通り、殺人鬼の恋人かなんかを自由自在に操る女性が登場するのかと思いきや、冒頭の少女時代の振り返りシーンで、早々に実は解離性人格障害を抱えた若い女性の物語であることが判明する。

斬新なのは、このヒロインの中に棲む4人の人格を、それぞれ別の女優が演じている点。こういう人格キャラの描かれ方では通常、シャラマン監督作品の「スプリット」のように、主人公とはかけ離れた驚くべき別人格が登場するのが定番だったりするが、本作では、真面目で奥手なメイン人格+奔放で男好きな人格+幼い少女のままの清純な人格、それに加えて最後の人格にアクセントが効いていて、レズビアンでメインの人格を愛して止まないという設定。

早々に二つの人格がベッドで絡み合うシーンが登場するが、結局のところ、それは冷静に考えると激しい自慰行為でしかないわけで、実に倒錯的。

やがて、ヒロインの周りで発生する連続殺人・・。ヒロインと性行為を行った実母の若い愛人が殺され、娘であるヒロインを虐待し続けた母親が殺される。一体、どの人格が殺人を犯したのか??がキーポイントとなる展開は面白い。単純に考えると、ヒロインを愛して止まないレズビアンの人格が嫉妬して・・となるのだが、四つの人格の恒例のテーブルを挟んでの“話し合い”場場では、どの人格も殺人については否定する。

ヒロインが住むアパートの隣人は、偶然にもヒロインの憧れの小説家。お互いに惹かれ合う二人・・。この恋の行く末は?

クライマックスの描写がこれまたお腹いっぱいになるほど濃厚で倒錯的にも程がある。

色々な謎を残したまま唐突にストーリーは幕を閉じるが、83分も上映時間があったのか?と思わせるほど短く感じたのは、やはり見せ方やストーリー展開が上手いんだろうな。役者陣も、怪演を見せる根岸季衣、バイプレーヤーとしてもそこそこ知名度が高い水谷研二と、決してアダルト作品を主戦場として活躍しているわけでもないきちんとした面子も揃っている。

男である自分は、これまたカルト作品の新ジャンルのような気がして、正直嫌いとは言えない作品だが、万人向けではないことも確か。

調べてみたら、中田秀夫監督って、Jホラーに手を出す前は日活ロマンポルノ、最近になっても手掛けているんだね。

まあ、「“それ”がいる森」よりは、大人が見るには何倍も興味深い作品ではある。

原作の結末も気になるなあ。
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