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ミッドサマーのohassyのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
4.2
「ヘレディタリー/継承」のある一場面で致命的な呪いをかけられてしまった僕は、本作でもやはり致命的な呪いをかけられてしまったようだ。

春を迎えつつある日本では、そこかしこに可愛らしい花が咲き始めている。

例えばこんな感じに。
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ミッドサマー以前は純粋に「かわいいな」「きれいだな」と思っていたはずなのだが、ミッドサマー後の今となってはそう単純にはいかなくなってしまった。
これを呪いと言わずして何と言おうか。

本作の設定やストーリーは、監督自らが様々な作品やクリエイターを例に挙げている通り、映画としては比較的よくあるものだ。
今までの人生と決定的に異なる世界に放り込まれた時の恐怖、もしくは開放は、どちらにせよ物語に大きなカタルシスを生み出す装置となりうる。
文化人類学的な切り口の作品はもちろんのこと、SFや戦争映画にも近しいものはたくさんあるだろう。
確かにショッキングな描写も多い。

ただ、呪いをかけられた理由はそこには無い。
犯人は、これまで闇と捉えて創作されてきたモノを野晒しにして、白昼堂々とごく当たり前のものとして提示される舞台のアートワークだ。

隅々まで作り込んだ集落の、セットとも本物ともとれる絶妙なバランスの完成度は、カメラワークやカット割りといった映画的手法の制限を無くし、演出意図を極力感じさせないことに成功している。
特に前半はその効果が顕著だ。
村人たちの様子を遠巻きに観察するようなカメラワークは、異世界にたどり着いた主人公たちが持つ違和感と興味を表現する。
例の崖では極端なカットバックで大袈裟に煽ることもなく、あくまで当事者としてその場に居合わせたような気分にさせる。
何より太陽が沈むことなく光が降り注ぐ北欧の夏至は時間の感覚を曖昧にし、鮮やかな緑と可愛らしい花々が優しく包み込む。
そんなやり口にだんだんと犯されていく。

後半の状況展開は比較的分かりやすく驚きは少ないが、注目すべきは主人公・ダニーの心情。
家族を亡くし、恋人とも心が離れてしまった天涯孤独な女性に追い討ちをかける絶望的な悲劇を見せられているのかと思っていたら…。
これだもの。

監督は、恋人との別れを経験し酷く傷ついている自分を癒すという思いも込めて、本作を作り上げたと言う。
それは「ヘレディタリー/継承」とも重なるクリエイティブアプローチであり、前作で表現した家族に起こった悲劇に恋人との別れを上乗せした形だ。
「散歩する惑星」に負けないアイロニーで、ブラックユーモアとして笑みが溢れるシーンも物語の進行と共に増え、前作にも感じた絶望的な悲劇の先にある新しい世界への旅立ちが、どことなく開放感に満たされたカタルシスを描く。

それにしても、暖かな春の日差しに映える青々とした緑と咲き誇る花々を見かけるたびにめっちゃ怖い。
デザインがすばらしい、LINEスタンプとかTシャツとかポルカ村グッズ欲しい。
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