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TENET テネットのohassyのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
3.5
これだけ考察が溢れた今、何か書けることがあるだろうか。

正直、あんまりないです。
それにしても、僕は想像以上に理解できなかった。
観終えた直後の感想は「ほとんど意味が分からなかったけどなんか面白かった!」という感じ。

CIAスパイだった主人公の「名もなき男」が何かの組織にスカウトされ、未来からやってくる脅威を阻もうとしている物語である。

分ったのはこれくらいで、スカウトしてきた組織とは何なのか、ケネス・ブラナー演じる悪いやつ・セイターのバックにいる未来人とは何なのか、そして第三次世界大戦とは何か。
大事そうなことは一切理解できてない。

エントロピーをはじめとした物理用語が分からないのは別に良いのだけれど、ここまでストーリーや現状が把握できない映画は久しぶりだった。
「インターステラー」は相対性理論に関してはチンプンカンプンでも、少なくとも人間ドラマと主人公の行動原理は単純に理解できた。
しかし今回は、主人公と観客が現状を把握できずに振り回されるという同じ境遇なのにも関わらず、主人公はあっさり自分の役割や新しい世界のありようを受け入れてしまったので、置いてけぼりにされた気分。
何よりクライマックスの戦闘では一体何か起こっているのか、何と戦っているのか、何を挟み撃ちしているのか、そして結末がどういう状況なのか、さっぱり分からなかった。

それでも本作は映画として面白い。
やはりノーラン流の気持ちの良い風呂敷の広げ方と、実物主義というか、本物を使う撮影の凄みだ。
特にハイウェイでの大型車両カーアクションが圧巻で、巨大なトラックやら消防車やらがガツンガツン接触しながら、軋みながら走り続ける「重み」は本物ならではだろう。
「インセプション」の第一階層で突如電車が突っ込んでくるシーンに、勝るとも劣らない迫力だ。
その他にもいわゆる逆行シーンは全て驚きではある。
逆行と順行の組み合わせを、撮影上どのように処理しているのかさっぱり分からないので、映像の展開に予測がつかない。
それは映画の楽しさそのものだ。
ちゃんと説明してくれているのなら、メイキングのためにBDを買ってもいい。

時間が経った今は少し理解できる部分もある。
時間を空間同様に「あるもの」と捉え、「未来に滅亡しか無いのであれば時間を逆行して生き抜けばいい」という発想は、地球がダメになったら他の星に行けばいいという「インターステラー」の考え方と同じだ。
いわゆるタイムトラベルにおける時間とは「狙った場所に戻ったり進んだりすることで何かを成し遂げようとする手段」だが、本作のそれは生きる上で必要不可欠な場所である。
第三次世界大戦はその場所取り合戦というわけだ。

10年前に戻るには10年間かかるし、そこからまた戻るにはさらに10年間かかる。
ということは30歳の時に10年間逆行して元の時代に戻ると、そのときはすでに50歳ということだ。
そう考えるとこのタイムトラベルはなかなか残酷だ。
過去を書き換えることで未来を守ることができるが、それを実行する人にとってはとんでもないリスクだろう。
ある特定の時間を行ったりきたりするだけで人生がどんどん浪費されていくなんて、考えただけでもゾッとする。
実行させるTENETのブラックさよ。

主人公の相棒となるニールは逆行して主人公と出会い、共に順行世界を守るために戦うわけだが、名もなき男に出会うまでの彼の長い逆行生活に思いを馳せると、その孤独は如何程のものだろうと気が遠くなる。
順行世界を捨てて逆行する行為は、インターステラーで主人公が全てを捨てて宇宙に飛び立つ行為と全く同じこと。
ニールが主人公であったなら、彼の行動原理と世界の理解度から、ずいぶんわかりやすい映画になっただろう。

でも本作はそうではない。
名もなき主人公と一緒になんだかよく分からない世界で、分からないなりにもがき答えに辿り着こうとする、その状況を楽しむ映画。
でももうちょっと理解したかったなあ、せめてラストのニールくらいは。

もう一回観るかどうか、めっちゃ悩みどころ。
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