マーチ

ひとよのマーチのレビュー・感想・評価

ひとよ(2019年製作の映画)
2.8
[フィルマ試写]

白石和彌監督の新作ということと、予告編を見る限り自分好みの感情的な話っぽかったので結構ウキウキしながら試写へ足を運んだんだけど、これがかなり変な映画だった。

はじめに断っておくと、あくまで私が変な映画だという印象を受けただけで、実際には大して変な映画じゃないのかもしれない。試写後に監督が登壇して行われたQ&Aでは「感動した」と言ってる人がいたし、フィルマの他の方の試写レビューを見た感じだと純粋に感動作として受け入れている人が多いから。

何が変かって、日本映画のお家芸的な破滅的展開で心を抉ってくる作品なのかと思いきや、その要素も保持しつつ妙なユーモアを挟み込んで進行していく作品だったところ。シリアスで胃がキリキリするようなシーンと、家族的なほっこりユーモアが交互に差し込まれるような変な構成になっていて、個人的にはここに違和感を覚えた。どちらか片方に注力すればよくある映画に成り下がるんだろうし、その変な構成が魅力の1つとなっているのは分かった上で、やっぱり“変”だと感じた。こちらの感情が揺れ動く直前でそれを許してもらえない寸止め感がこの作品にはある。しかもその(寸止め)繰り返しなので感情移入はできないし、全体を通して凸凹な印象を受けた。

兄弟3人が庭で「でらべっぴん」について話をしているシーンとか、田中さんと筒井さんの事務所での一瞬ヒヤッとする会話のシーンとか、冒頭の物語へグイッと観客を引き込む強烈な“さわり”、3人の兄弟が母親を見つめる最後のシーンなど、白石監督の演出が光る素晴らしいシーンは多々ありつつも、全体的な悲劇と喜劇の融合の上手くなさが個人的には引っかかってしまい、ユーモアがシリアスなシーンを茶化してしまっている気さえして、最後まで入り込めない作品でした。

3兄弟の中でも松岡茉優さんの演技は相変わらずナチュラルで良かったし、『よこがお』以降筒井真理子さんの存在感には圧倒されっぱなしで、それは今回も同じ。この作品は女性キャストの演技が全員本当に良くて、そんな中でも一層の“技あり”を見せてくれていたのがもう主役といっても過言ではない活躍の田中裕子さん。わざわざ事細かに説明する必要はなく、何が素晴らしいのかは誰もが作品を観れば分かるかと。
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