ohassy

ソウルフル・ワールドのohassyのレビュー・感想・評価

ソウルフル・ワールド(2020年製作の映画)
4.0
ピクサーの新作映画をサブスク配信で観ることになるとは、10年後くらいに「あそこからだったな」って思い出す可能性ある。

テーマは哲学的、梲が上がらない中年のおっさんが主人公、ジャズ、という、それはそれは大人向けというか中年層を直撃する作品で、こういう商業映画を作れるのはおそらくピクサーだけだろう。
監督は「モンスターズ・インク」「インサイドヘッド」のピート・ドクター。
自分の人生、その時々の思い、経験を常に作品に昇華させてきたまさにクリエーター然とした人物で、インサイド・ヘッドではまさに「アニメにしかできないこと」を成し遂げ、その手法を生かしながらテーマをさらに広げ、とうとう「生きるとは?」に行き着いたのが本作だ。

バブルが弾け、終身雇用が崩壊し、学歴社会は過去の遺物と言われて久しい一方で、実は格差は広がるばかりで何一つ変わっていない、実はむしろ昔より静かに追い立てられているかもしれない。
そこに今まで経験したことがない困難が世界中を襲い、来年がどんな年になるのか想像もつかない、全く見通しの利かないこの2020年末。
生きる意味を見出せず、ずっと魂のままでいようとする「22番」の思いは、もしかしたら今の子どもや若者たちの気持ちとかなり近いのかもしれない。

僕ら大人はそういう人に対してつい、生きる意味、がんばる意味のようなものを問いかけがちだ。
特に子供に対しては、将来どうするか考えて行動しろだの、ゲームばかりして何になるとか、作った料理は温かいうちに食えとか、つい口煩く言ってしまいがちだ(3つ目は特に)。
それは色々な経験を経て今に至る僕なりのアドバイスではあるのだけれど、僕の言う通りに過ごしたからといって成功するわけではないし、もっといえば成功や幸せというのはその人の解釈次第であって、人から決められるものではない。
もしアドバイスを求められたり、援助を求められたときはできるだけ与えるけれど、聞かれてもいないのにああしろこうしろという行為は押し付けであってアドバイスではないかもしれない、と、ここ数年でようやく思い至るようになった。

「好きなことで生きていく」はいいけれど、好きなことだけでお腹一杯になれるのは優れた人だけで、やりたくないことをやるから報酬を得ることができるのだ、という考えを捨て切れたわけではない。
でもやはり、何を幸せと、成功と捉えるかは本当に人それぞれだということだけは100%理解できる。
迷える魂「22番」も結局のところ与えられた世界の中だけで好きなこと(SPARK=キラメキ)を見つけなさいと言われていたわけで、誰かの価値観の中では自分を見つけられなかったということだ。

梲が上がらないおっさんことジョーと22番がトラブルに巻き込まれながら言葉を交わし、それぞれの考えや生き方に触れることでそれぞれが自分に気づいていく2人。
哲学的なテーマでありながら、冒険ファンタジーで魅せる王道アニメであり、インサイド・ヘッドからさらに磨き上げた世界観で描き出す、まさにソウルフルな作品。
当然ながら音楽も素晴らしいので、良い設備で観ることができたらさらに良い体験になっただろうな。
ohassy

ohassy