Nasagi

ミッドナイト・トラベラーのNasagiのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイト・トラベラー(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

アフガン難民で映画監督の家族が、ヨーロッパへ亡命する旅を自ら撮影した記録映画。
ホーム・ムービーのようにしてスマホで撮られた映像のなかで、命がけの移動、暴力と排斥、無限につづくかのような収容生活といった過酷な日々や、さらにそのなかでも成長していく子どもたちの姿が描かれる。
夢を見続けてずっと地獄を旅してきたのに、けっきょく塀のなかに囚われながら夢想するしかないというラストが悲しい。悲しすぎるけど希望は持ち続けているというこの感じ…

まずもってよくここまで記録したな、こんなに壮絶な経験を長期にわたって映像にのこして、それを映画として再構成したのはすごいなっていう感想をもった。
一方で、撮ることができたのはやはりそれができる「余裕のあった」ときでしかないということが言えるし、また撮ろうとした、あるいは撮ったけども「いやでも今こんなことしてる場合じゃねえわ」って破棄した箇所があったことなども伺える。
当事者が自らを撮るっていうのはある意味で一番手軽だけど、撮る人、撮られる人の役割分担があいまいになることで逆にいろいろ難しいことや葛藤もある。撮りながら亡命するっていうのはある種、撮りながら何かをする(Vlogる)のが当たり前の時代の極致って感じもするのだけど、一方で撮ることはひとつの不作為であって、撮っている映像に脇目を振っている間に、なにかをし損ねていることでもあるんだろう。

観ているときにこれ途中で死んじゃってたらこの映像どうなってたんだろうという気持ちになったが、もちろん残っていないことの方こそが普通なのであって、撮影者の家族たちがなんとかクリアできた綱渡りの道中で、他の無数の命がなくなっていっていることを想像させられる。

一番衝撃的だったのはブルガリアに入国してからの場面。やっとこさ辿り着けたヨーロッパのはずなのに、難民たちはここまで差し迫った身の危険を感じながら生活しているのか、と愕然とした。お母さんの「アフガニスタンよりひどい国だわここは!」という言葉が誇張でなく感じられる。一方で、自分にはこういう今まさに押し寄せてくる難民の集団と、それを排除しようとする人々との衝突みたいな切迫感は共有できてないよなと思う。もちろん日本も入管や技能実習生への待遇の問題などいろいろあるのだけれど。

ただ、この映画をみることで、彼らのような難民たちの存在が、ある日突然ポッと身近に出現したものではなくて、そこに至るまでの連続性というか、たどってきた人生の経験もふまえた人間的な存在として認識できるようになるのではないかと思う。
彼らが荷物をまとめてタジキスタンを出発するとき、スマグラーに用意された隠れ家で生活しているとき、あるいは難民キャンプに収容されているとき。それぞれの瞬間を描くことは新聞などのマスメディアにもできることなのかもしれないけど、それらをすべて一つの家族の身に起きたこととしてつなげて描くことは当人にしかできないこと。それをやってるのが、本作を際立たせている点だろう。
Nasagi

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