ちろる

雁の寺のちろるのレビュー・感想・評価

雁の寺(1962年製作の映画)
3.8
今まで観てきた川島作品のなかでも不気味さはピカイチこちらの作品。
舞台がお寺ということもあるのですが、登場人物の意図がイマイチ分かりにくくてベールに包まれたままに展開をひっそりと見守らなければならない緊張感が漂っているからなのかも。

寺の住職である慈海(スケベジジイ)と亡くなった檀家である画家から譲り受けた愛人 里と養子としてひきとられた若い僧 慈念の複雑な人間関係。
もし大人の男女2人と少年1人の共同生活とあれば、きっと小津安二郎先輩ならきっとハートフルな疑似家族の物語にしていたでしょう。
しかし川島監督のシニカルな視点は容赦ない。
セックス依存症のように若き愛人にしがみつく愛欲にまみれた生臭坊主と、嫌よ嫌よと言いながら色っぽい首筋をゆるませてしなだれかかる若尾文子演じる里のいやらしさといったらもう、、まだ10代の若僧には刺激が強すぎるだろう。
まるで、「鍵」の京マチ子の姿を思い起こさせるような挑発的な態度はたまたまなのかわざとなのか・・・

こんな環境き置かれながら休みなく働く少年の、心が少しずつ壊れていくことはもはや必然ともいっていい。
エロ→覗き→里の同情→この後の展開がとにかく急で怖い。
この作品はともかく登場人物誰の目線に立って描かれておらず、私たちはこの奇妙な3人の不穏な共同生活を送る姿をひたすら見せられ続けるのであるが、後半の慈念の「急変」はその[居心地の悪い傍観]に終止符を打たせるようなものでもある。
そして前半からずっと思っていた慈海のなんとも言えない(子どもらしかぬ)薄気味悪さに対しては腑に落ちてしまう。
最初から最後まで何が先に起こるのかわかんない不穏な空気と唐突なラストシーンのギャップがなんとも言えない気持ちにさせる。
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