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KCIA 南山の部長たちのohassyのレビュー・感想・評価

KCIA 南山の部長たち(2018年製作の映画)
3.5
「部長たち」なんていうとなんだかのんきな企業モノみたいだけれど、南山の部長というのは韓国中央 情報部のトップ、アメリカで言うところのラングレー、つまりCIAの長官にゲシュタポのトップ的な要素を加えたようなポジションのでかなりやんごとない人である。
しかしアメリカのような権力にあぐらをかくような地位というより、どちらかといえば弱小国家の尖兵として中国や北朝鮮などややこしい国芳との駆け引き、アメリカからのなどすごく面倒くさそうな重圧に絶えなくてはならない、非常に神経を擦り減らす役職でもあることは想像に難くない。

本作は1960〜70年代に韓国を支配した朴正煕軍事政権の元で最後の部長を務め、みずから引き金を引いて朴大統領を暗殺、政権を終わらせようとした金部長の物語。
行き過ぎて引き返せなくなってしまった朴大統領や腰巾着の警備部長、アメリカからの横槍、国民感情間に挟まれながら、なんとか韓国を正しい方向へ導き生きながらえさせようとした金部長は、まるでイチ企業の中間管理職のような、あるいはヤクザ幹部のような翻弄のされよう。
土砂降りの中、仲間はずれにされてしまった会合に単身忍び込んだり、誰かに指示するでなく自分で大統領に銃を向けるあたりに、金部長の人柄のようなものを感じることができる。

作品全体を通してはなるべく中立を保とうとする姿勢が伺え、金部長を演じるイ・ビョンホンも静かな佇まいとうちに秘めた苦悩を言葉少なく表現する。
一方でストーリーは史実をなぞりながらも、金部長を中心に登場人物たちの内面に迫り、ことに至る感情の揺れ動きを浮かび上がらせようとするアプローチは本作の白眉だ。
自由を目指し命をかけて革命を成し遂げたはずの仲間たちとの確執が、嫉妬や憎悪につながり行動に拍車をかける。
朴大統領を演じるイ・ソンミンの迫力にクァク・ドンヨンに、相変わらず韓国映画はおじさんたちが本当に素晴らしい。
見ごたえがある顔が揃っている。
車内でおもむろに飴を頬張り噛み砕くあのサクサクとした音、あれは随分糖度が高い飴なんだろうな。

金部長は史実の通り暗殺を成すものの、事件後に政権を取ることになった全斗煥はその後「タクシー運転手 約束は海を超えて」で描かれた「光州事件」を起こすに至る。
すぐに時代を変えることはできなかったわけだけれど、今の韓国は独裁政権でもないわけで、全く意味がなかったともいえまい。
どこまでが本当のことなのかは知る由もないけれど、隣国の現代史としてとても興味深い。

ところで韓国初の女性大統領・朴槿恵は、本作に登場する独裁者のモデルとなっている朴正煕の次女らしい。
こんなに悪名高い人物の娘が、大統領になることがあるんだなあ。
いや、日本もそんなに変わらんか。
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