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みをつくし料理帖のmoobyooのレビュー・感想・評価

みをつくし料理帖(2020年製作の映画)
4.6
まさか角川春樹氏が、奇を衒わずにコレほど優しい映画を撮るなんて正しく青天の霹靂であり俄に信じられません。

『犬神家の一族』は名画座でしたが『人間の証明』からはロードショー公開時に概ね映画館で観て来ました。つまり自分が映画少年になる過程での日本映画における重要な布石の一端を角川春樹時代の角川映画が担っている事は間違いありません。特に角川氏自らのメガホンによる作品を思い返すと、確かに首を傾げる映画が多い事は否めません。しかしながら昭和の邦画低迷期に独自の戦略で映画興行を活性化させた偉業は計り知れないのです。

そして角川春樹最後の映画(既に半撤回?)とされる本作は、大林宣彦監督へのさり気ないオマージュから始まり、原田知世さんが不在だったのは気になりますが、石坂浩二さんを筆頭に旧角川映画ゆかりの俳優陣が同窓会のごとく集結しています。その豪華な共演陣を従えて満を辞して主演を張るのが若手実力者の松本穂香さんである必然性と、事実上ダブルヒロインである奈緒さんとのコラボは、数々の女優さん達を世に出して来た初期角川映画の面目躍如なのです。

今の若者達は時代劇を映画館に観に行かない人が多いだろうし、スピード重視の時代に敢えてこのゆったりとしたテンポで作品を紡いだ、かつての剛腕プロデューサー角川春樹氏の思惑を深読みすると、反逆の精神は健在なのだと思わずにはいられません。
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