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マザーレス・ブルックリンのStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

マザーレス・ブルックリン(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

原作はジョナサン・レサム、監督・脚本・主演はエドワード・ノートン。

私立探偵事務所で働くライオネル・エスログ。障害を持ちながら一度見聞きしたことは忘れない特殊能力を持つ彼が、ボスのフランク・ミナが殺された事件の真相を探る。

テーマ曲はトム・ヨークの"Daily Battles"で胸を打つ美しさなのだが、あれだけジャズをフィーチャーし、物語展開にもジャズ・ミュージシャンが大きな役割を担っている映画でなぜ白人男性ミュージシャンのクレジットをいちばん大きく出すのか、少し疑問だった。

ローズは白人男性と黒人女性の混血である。彼女が伯父の配下の黒人男性に身体を触られたときは抵抗感を示し、白人男性のライオネル・エスログに肩パットをされたときは、1、2、3回と数字を合わせずにはいられない彼の障害に理解を示して受け入れる。小さな描写なのだが、ライオネルの障害がなければ現代ではかなり配慮がない人種配置であろう。

ローズの父親は、黒人女性の身体には惹かれるが、黒人スラム街を撤去する激しい黒人差別を行う白人男性のモーゼ・ランドルフであることが明らかになる。「彼女が母親と同じ黒人だったら魅力は理解できるがな」(If she is as black as her mother, I could understand the pull")という台詞が、黒人の身体好きの黒人嫌いっぽさを表しており秀逸だった。『ゲット・アウト』(ジョーダン・ピール監督、2017年)のテーマを彷彿とさせる。

ライオネルのトゥレット症候群が、一度目や耳にしたことを忘れない映像記憶(eidetic memory、『クリミナル・マインド』のスペンサー・リードと同じ能力)の代償のように描かれている。障害と特殊能力をトレードオフのように描くやり方にはあまり感心しなかった。衝動的に動き汚言を発するエドワード・ノートンの演技力が類稀なものであることは分かる。

ライオネルとフランクの関係性は非常によかった。ブルース・ウィリスは男性の保護者役がよく似合う。

ただ、最終的に主人公の白人男性が家も彼女もゲット、その裏で、いつまでも負け続ける脇役がいる(ウィレム・デフォー演じるモーゼの兄ポール)というのは、時流に逆行しているし、ハードボイルド小説の類型からも外れていると思う。村上春樹の小説がいつまでもノーベル賞を獲れないのと一緒で、主人男性中心のナラティブで、その主人公だけが類稀なる知性により最後に勝って(あるいは何らかの啓示を得て)終わり、というのは今どきあまり受けないと思う。途中まで「何でこんなすごい作品がもっと評価されないの?」と思って観ていたが、ライオネルのキャラ造形が「障害は持っているが鋭い知性を持ち、クールな状況判断が下せる」というものから一歩も出ないものだったので察した。最終的に「主人公はやっぱり賢い人だったんですね」で終わる作品は、物語としての強度が足りない。ライオネルが自分の殻を破るモーメントがもう一押し欲しかったところ。
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