YAJ

2人のローマ教皇のYAJのネタバレレビュー・内容・結末

2人のローマ教皇(2019年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

【法王改め】

 N社のオリジナル作品も、かれこれ4作品目の鑑賞だけど、一番良かったかも。もしかすると、この年末に、今年のイチオシ作品と思える良作に出会えた。N社の他作品共々来年のアカデミー賞を賑わすことになるだろう。

 教皇ご自身も先月来日もされたばかりだし、実によいタイミングの封切かと。
 個人的にヨハネ・パウロⅡの頃からローマ法王ファンですが、あ、いまや呼称は「教皇」に統一されたんですね(今回の来日を前に11月20日外務省が発表してました)。2年前に見た現教皇関連作品は 『ローマ法王になる日まで』という邦題でした(改題したりするのかな?笑)。
https://www.facebook.com/tetsushi.yajima/posts/1408649062544270

 この教皇様、ドラマになる人ということが2作品を見てよく分かる。70年代のアルゼンチンの軍事政権下での行動は前作『ローマ法王に~』で具に描かれていた。本作でもフラッシュバックで概要は知れる。
 そして前作で端折られた(とYAJが思った)コンクラーベの様子や、その背後で候補になって選出されるまでの裏舞台は本作でじっくり描かれる。両方観て教皇様のヒトトナリがいっそう良く分かるというもの。

 本作は、生前退位を企図する前教皇ベネディクト16世と、後継にと目されたホルヘ・マリオ枢機卿(後のフランシス教皇)が、ふたりっきりでじっくり話し合う場面が作品の大半を占める。なのに見入ってしまうのは、2人の教皇を演じたアンソニー・ホプキンスとジョナサン・プライスのチャーミングな演技と、それを支える見事な脚本の成せる技。

 ジョナサン・プライスは 『天才作家の妻 40年目の真実』で見せたダメ旦那の面影まるで無し。実物にもそっくりのその風貌で、魅力あふれるフランシス教皇を活き活きと堂々と演じていた。会話劇で、これほどまでに魅入った作品は近年珍しいかもしれない。

 音楽、美術も素晴らしい。宗教音楽ではないポップソングが随所に使用されるのは、ホルヘ・マリオ枢機卿が無類の音楽好き、タンゴも踊る洒落者であることもあり、ABBAやビートルズ、タンゴにJAZZが、洒落たアレンジで、絶妙のタイミングで流れてくる。

 後半、A.ホプキンスが、後継者となることを固辞するJ.サプライズを説得する場所として、システィーナ礼拝堂が使われる(精密に再現されたセットだそうだ)。
 ミケランジェロが描いた、神と人間の様々な場面が描かれた壁画に囲まれて語らう2人。そこで荘厳な宗教音楽ではなく、ジャズっぽい旋律を流す。2人の教皇が人間性をさらけ出して、心のままにインプロビゼーションを繰り広げるようで実に面白い。
 その二人を取り囲む宗教画も、人と神が織りなすジャムセッションのようだ。ミケランジェロのフレスコ画の躍動感もいっそう際立つというもの。

 ビートルズの「Blackbird」の使われ方も実に好き!この作品のサントラ、欲しくなります。



(ネタバレ、含む)



 キーワードは、PIZZAとサッカー?!
 こんなにも人間味あふれる教皇像をよくぞ描いてくれました!と脱帽!

 醜聞にまみれたベネディクト16世も、苦悩に満ち、それなりに迷いを抱えたひとりの人間として描かれている。それを、実に悲哀とともに愛嬌を以って演じるアンソニー・ホプキンスに喝采。

 個人的にも、短命だった就任期間からも印象の薄い、というか良いイメージのない教皇様だったけど、権力の座にしがみつかず、後継にホルヘ・マリオ枢機卿を推すことで、人はいつでも変わることができるということを体現した。これは、恐らく本作における最大のテーマだろう。
 それを最初、「change(変化)」だ、いや「compromise(妥協)」だと、ホプキンスとプライスがやり合う様がなんとも微笑ましいのだ。相手がこういえばああいうの会話の応酬が終始繰り返される。

 最初は明らかに立場も意見も異なる二人である。片やガチガチの保守派、片やロック音楽を愛する変わり者の改革派。話がかみ合うはずはないと観ているほうも思うが、頑固な老人二人が、なぜか波長が合っていて、討論の緊張感の中に、どこかユーモラスな部分があり、絶妙のさじ加減で、味わいあるふたりの思いが融合しあっていくのだった。

「妥協ではない。私は変わった」

 この台詞を恐らく2人とも使ったと思う。お互い妥協ではなく、より良い解決のために変わっていく、見事なストーリー展開だった。

 かように見事な脚本は、さらに聖職者のTOPの2人の会話ゆえに、崇高で含蓄ある言葉を選び、対話の中でのタイミング、両者の間合いなども、実によく練られていた印象(たくさんメモっておきたくなるような金言があったのに、最後のほうに出て来た「流す涙は嬉し涙が良い」くらいしか記憶にない!涙)。

 僅か数日の2人の対話の中で、ベネディクト16世統治期間の混乱から、700年ぶりの自由意志による退位決意の背景、さらにはホルヘの過去への回想も交えて壮大に描きだす。なんという物語の広がりか。

 さらに、この2人の教皇の心境の「変化」を鑑に、ローマ・カトリック教会、あるいは世界中の全ての宗教、国家や指導者、そして我々も人として変わっていけるものだと共感できるものにしている点もお見事。
 カトリックの最高峰のバチカンの教皇様でさえ、信仰に迷い悩み後悔し、進むべき道を模索する姿は、言葉を超越した教えとなり、我々を導いてくれるものになっている。

「人は神にはなれない。神の中にある人でしかない」

 そう、誰もが「人でしかない」のだ。

 南米出身の初の教皇様ということで注目を浴びたフランシス教皇だが、枢機卿の中にも多種多様な人種が含まれてることも本作でよく分かる。そしてバチカンで使われる言葉の多様性も面白い。コンクラーベのために世界各国から集まってくる枢機卿たちは挨拶を交わすとき、相手の話す言語を使う。たとえ挨拶程度でも、それって素晴らしいことじゃないかな。
 保守的なローマ・カトリックのイメージを変えるシーンだったような気がした。なんなら、正式な儀式ではランテ語だけ使われているのかと思っていた。このラテン語、ベネディクト16世がいかなる場面で使うのか。面白い使われ方していてユーモラスだ(が、実は、それは実話だったと後で、いろいろ調べてみて知った)。面白い。
 ドイツ出身のベネディクト16世、アルゼンチン出身のホルヘ枢機卿、それぞれがそれぞれのお国言葉訛りの英語で会話しているのも、さすがの役者魂と舌を巻く。

 そして、愛すべきエンディング(エンドロール)が用意されているので、決して最後まで席を立たれることなく。

 キーワードはPIZZAとサッカー! 
 いやあ、快作だ! そしてまたYAJはローマ教皇ファンになるのだった(笑)
YAJ

YAJ