櫻イミト

未亡人館の惨劇の櫻イミトのレビュー・感想・評価

未亡人館の惨劇(1971年製作の映画)
3.5
スラッシャー映画の最先駆作と言われるカルトC級スリラーの逸品。フィルム・ノワールの大女優だったグロリア・グレアム(当時47歳)が出演。

売春婦だった母親を殺害されたエリー(メロディ・パターソン)は未亡人のディア夫人(グロリア・グラハム)が営む孤児院に入れられる。軟禁状態の若者たちと脱走者の噂。明らかに怪しい孤児院から抜け出し実の父親を探しに行きたいと願うエリー。しかし彼女には思いもよらない惨劇が待ち受けていた。。。

こぅ様から教えて頂いて鑑賞。

掘り出し物の個性的な良作だった。映像と美術は見るからに低予算だがミステリー仕立てのプロットが意外に練り込まれ、伏線の回収にはどんでん返し要素も加えられていてラストカットまで楽しめた。孤児院の冷凍庫や顔面火傷の謎の男などホラーなギミックが頻発するのも楽しい。ゴア描写はあるがジャッロ風なので怖すぎることは無い。

グロリア・グラハムをはじめ役者陣が意外に充実しているのも同年代のエクスプロイテーションと比べて完成度が高い要因だと思われる。一方、登場人物の殆どから滲み出る品性の無さが本作に独特の禍々しさをもたらしていた。主人公の母親が“街に住む16歳以上の男全員と関係を持った売春婦”という設定が凄い。それだけでこの田舎町のインモラルさを印象付ける。ヒロインを見守る中年探偵が序盤にしみじみ語る台詞「俺の年になって真剣に結婚を考える場合、繁殖用のメスを求めるものだ」がヤケに印象深かった。

冒頭の悪夢でPOV風な主観ショットが1971年制作にして早々と使われている。実にチープな映像ではあるのだが二重の意味でミスリードとなっていて観終わって感心。ラストの落としどころも巧妙でニヤリとさせられた。

原題は「Blood and Lace」。ジャッロ映画の先駆とされるバーヴァ監督の「モデル殺人事件」(1963)の原題「Blood and Black Lace」からパクったのかもしれないが、奇しくも本作がスラッシャー映画の先駆となったのが興味深い。
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