ぴろ

ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男のぴろのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

 『ダーク・ウォーターズ』。米化学メーカー大手のデュポン社による公害問題の闇を暴く、実話ベースの社会派スリラー。
 実話ベースの社会派映画… 『アメリカン・スナイパー』や『ハドソン川の奇跡』と似たようなもんか。そう思って観始めた。映画は1960年代の場面から始まる。遠い異国の、過去に起こった事件の話。

 主人公は弁護士のロブ。1998年のある日、ロブは農場経営者の男性から家畜の大量不審死の調査を依頼される。調査を進めていくにつれ、不審死は大手化学メーカーのデュポンが、長年にわたってある化学物質を垂れ流してきたことが原因であることが明らかになっていく。
 PFOA / C-8。焦げ付かないフライパンで有名なテフロン加工などに使われる薬品だが、有毒性が強く、治験用の猿はほとんど死に、マウスは奇形児を産んだ。そして、テフロンの製造ラインで働いていたある妊婦は、鼻腔を1つしか持たず片目が奇形の男児を出産していた…。2001年、これらの事実を隠蔽していたデュポンを相手に、ロブは被害住民7万人を原告とする一大集団訴訟を起こす。

 しかし、病気の因果関係を証明するための医学調査が長引き、裁判は終わりを見ないまま時はどんどん流れていく。裁判開始の次の場面は2005年だった。そして次の場面は2012年。ロブは成長した件の奇形児、バッキーと偶然出会う。カメオ出演の彼は被害者本人だった。

 映画館で本作を鑑賞している私の「今」に、作中の時間がどんどん迫ってくる。デュポンの被害者バッキーは現実に存在し、今も何処かで生きている。
 そして2015年、調査でテフロンと病気との因果関係が認められた事例の審議が始まったところで、映画は幕を閉じる。"ロバート・ビロットの戦いは現在も進行中"という字幕と共に。

 そう、本作で描かれていたことは今まさに起きている公害訴訟であり、その公害は大気や水の汚染を介して、遠く日本に住む我々にも関係する問題だった。PFOA /C-8は、99パーセントの人間も含む事実上地球全ての生物の血液に混入していると考えられているという。


 コロナワクチンを有害だとする陰謀論が流行っているみたいだが、本作を観た後ではバカには出来ないと思った。企業や政府、科学者の癒着、それによる住民被害は実際に起きうる。
 しかし、勘違いしてはいけない。情報に溢れ、裏で大きな力が働き、何が真実で何が虚構なのか分からない現代だからこそ、求められるのは"リテラシー"だ。私たちはそれを身に付けなければならない。自らの手で一つひとつの事実を拾い集め、暗い水底に沈んだ真実に光を当てたロブのように。
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