不在

情事の不在のレビュー・感想・評価

情事(1960年製作の映画)
4.4
法律のみに目を向けるならば、ここ日本では死別した配偶者の葬式が終わった直後にまた別の誰かと結婚しても、なんら問題はないということになっている。
この当時のイタリアがどういった取り決めをしていたかは分からないが、この映画における男と女も、法律に背いているわけではなさそうだ。
しかし観客も含めて、彼らを理解し、その行為を認めることのできる人間はそう多くないだろう。
つまりここには法すら超える人間のモラルという、言葉では言い表せないなにかがあるのだ。

その道徳心が生み出す愛が人間的というならば、この作品のそれは動物的とでも呼ぶのだろう。
野生に喪中などない。
種の繁栄を望む動物としての愛が、節度と調和を保った人間の愛に劣るのだろうか。
我々人類はどちらの側面も持ちあわせているというのに、前者を悪、後者を善と教えられてきた。
しかし理性とモラルでの潔癖な愛を貫くようになったら、人間の数は間違いなく減ることだろう。
だが我々はリビドー、肉欲を、そう易々と認めるわけにもいかないのだ。
人間の、動物としての悲しき性を道徳や社会性とかいった言葉で否定することで、人は本当に救われるのか。
我々をこの時代まで繋いできた愛というものはなんとも不可解で、あまりに不合理だ。
そんな曖昧で不安定なものに結局は頼らざるをえない私たちを、アントニオーニは静かに笑っている…。
不在

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