しゅう

花束みたいな恋をしたのしゅうのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
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〈この東京の空の下、私たちは出会った。〉
15:45開映(18:20開映『あのこは貴族』)

偶然性に賭けられなければ、恋愛など不可能である。九鬼周造や大杉栄がこの映画を観たらそう言いそう(権威による論証)

一般に、自由恋愛が可能な空間であるとされる近代都市の方が、実は恋愛の自由さを必然性に張り詰められんとする確率空間で代補してしまうという傾向があるだろう。
この映画では執拗に相手の内面を推量する賢しらな語りが蔓延しているけれども、それは『なんとなく、クリスタル』的・データベース的に表象される東京の若いもんが好みそうな種々の記号とあいまって、この「必然的な恋愛」理念を逃げ場のない隘路に追い込んでゆく。

この映画自体について何か語ることがあるとすれば、従来は恋愛という場所にあてがわれるはずだった価値の位相ずらしをしたことにあるのではないか。「花束みたいな恋」は決して皮肉ではなく、一見逆説的ではあれ、実際に実現し、ポスト恋愛的何かに仮託されたのである。あとは、観客がそれを信じられるかどうかが重要である。そういうインストラクションに満ちた、"ありがたい"映画だった。
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