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バビロンのSadAhCowのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
4.5
2023 年 4 本目 

何かわけも分からんまま、デイミアン・チャゼルの力技で 3 時間運ばれた感じやった。

言うなればハリウッド版「諸行無常」かな。舞台は 1920 年代。空前の好景気のなかでサイレント映画が最大の娯楽になった一方、いまだに映画を低俗とみなす風潮が強かった時代でもある。犬と役者はお断り! 今や映画の方がテレビやネットに対してある種の権威として存在しているというのはなんとも皮肉。時代はめぐるのである。

クスリあり乱交あり暴力ありの狂乱パーチーに夜な夜な明け暮れる ”ギョーカイ人” たち。まじで引くほど騒いでるのだが、名声に飢える夢追い人にとっては、一発逆転のチャンスを掴む場所でもあった。このへんのテイストは『ラ・ラ・ランド』と同じなのだが、いかんせん 1920 年代なのでもうエネルギーがヤバい。ホームパーチーでゾウ持ってくるってどういうテンションよ。そして撮影で人が死んでさらっと流される。『アイリッシュマン』ばりの人命の軽さである。

このあとハリウッドでは映画製作の自主倫理規定(いわゆるヘイズ・コード、名目上は 1968 年まで存在した)が敷かれ、映画からセックス、暴力、反キリスト描写が排除された。この時代を知っている人から見れば、戦後のハリウッドなんておとなしすぎて話にならんのだろうな(もちろんヘイズ・コード下でも面白い作品は山ほどあるけど)。

トーキーがサイレントを「滅ぼした」ように、新しい技術が出てくれば古いものが衰退するのは世の常である。でも消えていったものの無数の屍の上にこそ新しい文化ができる。サイレント映画なんて、いま見たら「音声無しでこんなに伝わるのすごくね」ってことで逆に新しさを感じるからな…。

なお、本作で引用された映画のリストを町山智浩氏が作成している。これだけでちょっとした映像文化史ですわな。https://note.com/eiga_hiho/n/nf9ec00c484b3

監督のクセ(ってかこれほぼ性癖やろ)がめっちゃ強いのでアレだが、見ておいて損はない一作なのは間違いない。でも見る前に水分は控えたほうがいい。長いから。
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