コミヤ

ハニーランド 永遠の谷のコミヤのレビュー・感想・評価

ハニーランド 永遠の谷(2019年製作の映画)
4.5
ドキュメンタリーなのにフィクションのような映像と音が撮れてしまっている不可解過ぎる映画。本作は2021年アカデミー賞でドキュメンタリー映画賞と国際映画賞のどちらにもノミネートされたらしい。演出か偶然か分からない何かが映ってしまっていることへの驚きの連続。人間の生活にどうしたらこんなにもカメラを溶け込ますことができるのか。小森はるか同様被写体との親密さを勝ち得るまでの時間が成せる技なのだろう。画面に映っていないところで被写体とスタッフがどんなやりとりをしていたのか気になる。制作過程が書かれた記事を読むと、偶然が積み重なって作られていることが分かる。元々は養蜂家のドキュメンタリーとして撮っていないということや、監督たちは養蜂家とその母親の話す古代トルコ語を理解しないまま撮影していたという話などどれも興味深い。エンドロールで撮影監督が2人クレジットされていたのでカメラは2台体制だったと思うが、途中でトルコ人家族を乗せた車が現れる場面を2アングルくらいで撮った後に、それを見る養蜂家を望遠と接写で撮影しており、編集で時間を繋いでいるとはいえ、いくらなんでもアングルが的確すぎるだろと思った。養蜂家の女性が寝たきりの母親と2人暮らしする暗い家で彼女たちを照らす蝋燭の僅かな明かりなどは映画館で見たかったし、撮影クルーの存在を廃するほどの異常な拘りを感じる整音された音も映画館で聞きたかった。最近先輩から養蜂に誘われたのでそれに備えて観たが、やっぱりお隣の養蜂家さんとの関係性はとっても大事なのだと思った。そして何よりも蜜蜂との関係性。「半分は私に、半分はあなたに」この哲学の行方は。やがて物語は土地、家族に縛られた女性の開放として結実する。あの晴れやかなラストショットからは希望を感じざるを得ない。こういう作品が撮れたらどんなに幸福なんだろう。
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