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ファヒム パリが見た奇跡のshironのレビュー・感想・評価

ファヒム パリが見た奇跡(2019年製作の映画)
5.0
チェス盤に吸い込まれるような緊張感に大興奮!
難民問題のジレンマを描きつつ、ファヒムの魅力が周りの人々に“一歩踏み出す勇気”を与えてくれる映画でした。

実話を基にした映画なので、どこまでが実話でどこからがフィクションなのかはわかりませんが、映画として伝えたかったテーマは、「人は人との出会いによって自分を変える事が出来る」ということだったように思えます。

頭の回転が早く、ユーモアにとんだファヒムはすぐさまコミュニティに溶け込み、
彼の抜きん出たチェスの才能を目の当たりにした人々は、彼の熱量に圧倒され、彼から刺激を受け、彼の為に協力し、彼が更に大きな舞台で羽ばたけるよう働きかける。
それぞれ自分達が出来る、自分に合った方法で。
個人レベルの働きかけであっても、その熱量が通じ、組織や国を動かすことだってある。
いかにも民衆が人権を勝ち取ったフランスらしい闘い方。

そして、変わるのはパリの人々だけではなく、ファヒム自身も。
個性的な仲間やコーチとの関係の中で、いろんな刺激を受けて変わっていきます。
「チェスは戦闘だ」と言い切り、とことん勝ちにこだわるスタイルだったファヒム。
終盤のチェスシーンは圧巻でした。


実は、今回一番楽しみにしていたのは、ジェラール・ドパルデュー様の演技!!(≧∀≦)
久しぶりのフランス映画だし、彼が演じるってことは、きっとコーチは一癖も二癖もある人物に違いない!と期待値MAXでしたが、
やはり唸るしかない名演技でした。
見事に期待を超える気難しさww
乱暴で言葉も悪く、独裁的に教室の子供達を萎縮させているように見えますが、
徐々にチェス以外には無頓着で、人付き合いも不器用な一面がわかってきます。
そんなチェスバカの彼が、ファヒムの置かれている立場を、彼なりに理解しようとしていて…
二人が心を開くシーンが素晴らしく、チャーミングで笑える演技もさすがでした。

ファヒムを演じたアサド・アーメット君は、利発そうな顔立ちのイケメンですが、ひとたびチェスとなると鋭い眼光を放つ。
子供らしい茶目っ気のある笑顔とのギャップ萌え!
好きにならずにはいられません。

マチルド役のイザベル・ナンティも『アメリ』の頃と変わらないフェロモンがすごい!!
この映画の中で、一番自分の殻を破った人物かもしれません。

ルナちゃんの柔らかな魅力も素敵。

チェスの仲間達も個性的で、どの人物もキャラが立っている!
最初に友達になるのがアジア系のレオだったり、それぞれの家族や立場を一瞬で描き出す演出力が素晴らしい。

でもそれは、映画全体を通しても言えることで、たとえちょっとした役であっても、悪役ですら愛すべきキャラクターとして描かれていて、その人物のバックボーンが感じられる。
やっぱり監督が役者でもあるからなのでしょうか?
丁寧で豊かな人物描写に引き込まれました。

最後に、ファヒムを守る為に仕事も家族も置いて一緒に渡仏した父親について。
ファヒムとは対照的に描かれますが、ある意味この映画の中で“変わりきれなかった人物”なのかもしれません。

責任ある立場でやりがいのあった仕事を失い、フランスの文化にうまく馴染めず、どんなにか自尊心が傷つけられた事でしょう。

滞在許可さえあれば就労するのは簡単ですが、滞在許可を取る為には就労が必要。
大いなる矛盾を抱えている移民問題につても、考えるキッカケとなる一本だと思いました。
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