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わたしは金正男を殺してないのtakaoriのレビュー・感想・評価

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2024年32本目

原題は「暗殺者」だが、その内容は邦題にある通り、2017年にマレーシアで起きた金正男暗殺者事件の「実行犯」である2人の女性には、実は彼を殺害する意図は全く無く、巨大な陰謀のコマとして使い捨てにされたに過ぎなかった…ということを明らかにするものである。
このニュースを見た多くの人は、金正男を殺したのが実質的には北朝鮮の指導者となった異母兄弟の金正恩であることがあまりに見え透いていたために、白昼堂々監視カメラの前で金正男にVXガスを塗りつけた女たちが何者なのか、ということにはそこまで関心を持たなかったのではないだろうか。「殺し屋」でもなんでもない普通の女性に恐ろしい犯罪をさせた手口がいったいどんなものだったのかという真相は、下手なサスペンスドラマよりよっぽど面白い。
暗殺事件の真相を探る上で見えてくるのは、SNS時代のネット社会の闇や、搾取される女性の苦しみといった数々の社会問題である。また、彼女らがマレーシアで殺人罪で有罪となればすぐに死刑が決まってしまう、ということが緊張感を高めるが、冤罪なのに死刑にしてしまうということの恐ろしさもよく伝わってくる。人権無視国家である北朝鮮と仲の良いマレーシアが、やはり極めて大きな人権上の問題を含む死刑制度を積極的に運用している、という事実は、死刑賛成派が多数を占める日本人にとっても、決して他人事ではないだろう。
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