はる

監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影のはるのレビュー・感想・評価

4.6
全現代人が観るべき映画では。
インターネットが普及し、SNSが一般的なものとなった現在における、様々な社会問題について語るドキュメンタリー。

IT企業の社員は、子供にSNSをさせることに非常に慎重になるという。
無料のSNSを運営する企業にとって、顧客はあくまで広告主、ユーザーは「商品」である。
そして独自のアルゴリズムによって依存させることで、できるだけ多くの広告を見せようとする巨大資本。
SNSに依存しきった大衆が出来上がるのは自明である。

基本的に、人間の脳は数百万年前から変わっていないと言われる。
そこにSNSという麻薬を注入されては、人類に抗う術などない。

若者の自殺率や鬱の増加、新たな疾患、社会の分断、フェイクニュース等々、挙げればきりのないインターネット社会特有の問題の発生を見て、果たして科学の発展は人類にとって幸せなことなのか、と皮肉な疑問を抱かずにはいられない。
SNSが原因の事件や、あちこちでヘイトが撒き散らされている様相を見て、同じ疑問を抱いた人は少なくないのではないだろうか。

IT企業のエンジニア達も、世の中を豊かにすると信じていたサービスがこのような現状を引き起こしていることについて、少なからず葛藤を抱いているようである。
しかし、巨大資本を前に、一個人ができることはあまりにも少ない。
それは会社勤めを経験した人ならわかるだろう。


では、科学の発展に人類がついてこれなくなった現代は不幸な時代なのだろうか。
エンジニア達がそうであるように、私もそうではないと信じたい。
これだけ便利な世の中へと導いた先人たちの英知を、唾棄すべき無駄なものと思いたくはない。
この魔法のような技術は、決して使い方の分からぬ現代人によって腐らせてしまってよいものではない。

映画内でも語られているが、人類は際限なく森林を伐採し、際限なく鯨を殺し、また際限なく石油を採取し、環境を破壊してきた。
資本主義である以上、資本に歯止めが利かないのは歴史が語っている通りだ。

やはり法整備による規制が急務なのだろう。
政府によるSNSの規制は、先進各国で少しずつ進んではいるものの、まだまだ未熟であると言わざるを得ない(SNSが世の中に現れてからの年月を考えると仕方ないが)。
現在の議論は、テロをはじめとする犯罪対策等、内容に対する規制が主なのだろうが、作中でも言われていた、データ通信料への課税、すなわち質だけでなく量に対する規制、というのは間違いなく必要になるだろう。

そしてそれを提言すべきなのは、やはりシリコンバレーの巨大IT企業であるべきだと思う。
そういう意味では、この映画を、やはりIT系巨大資本であるNetflixが配信しているということは意味のあることだと思う。
恐らく私が言うまでもなく、既に社会問題が表面化している以上、政府とのやり取りはかなり進んでいるのだろう。
まずアメリカが変わり、そこに欧州や東アジアが追随する、という流れを想像すると、日本が変わるのは一体何年かかるのだと気が遠くなる思いもある。

このSNSという魔物を、人類が適切に使いこなせるようになる日が1日も早く訪れることを願ってやまない。
はる

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