はる

オッペンハイマーのはるのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.3
カナダに滞在していたころに向こうでは公開していたが、日本語どころか英語字幕もなしでは理解できる気がしなかったので視聴を見送っていた。
その考えは完全に正しかったものの、日本での公開がこんなに遅れるとは。
もちろん日本人として事情は理解できるのだが、ここまで引っ張る必要はあっただろうか。


序盤は難しすぎた。
ざっくり予習はしていたが、もう少し勉強しておくべきだったかな。

オッペンハイマーという通常であれば共感が難しい人物に視聴者を共感させてしまうノーラン監督の脚本の手腕は見事。
そしてそれを再現しきる超豪華な役者陣の演技は言うまでもなく素晴らしい。

中盤の実験シーンでは胸が痛くなった。
凄まじい迫力の映像と音響から、貴重な映画体験であることに疑いはないのだが、それが後に日本の上空に放たれることを想像せずに視聴するのは難しい。
もちろん私は日本人として、原子爆弾の実験の成功を喜ぶ彼らに共感することはできないが、それぞれの仕事を全うしただけの彼らを責めることもできない。


そして日本人である私が、彼の仕事をどう考えればいいかというのは非常に難しい。
原子爆弾が戦争を終わらせるために必要だったのかと言われるともちろん完全に同意はできないが、戦争責任が日本にもあるのは間違いない。
当時の日本が相当野蛮なことをしていた国だというのは事実であるし、負けの決まった戦争をくだらない精神論で長引かせた日本の上層部にも間違いなく責任はある。

そして本作は当然アメリカ視点ながらもどちらの側にも寄りすぎていないのが良かった。
核という人類を滅ぼしかねない兵器を開発してしまったことへの葛藤と苦悩。それは間違いなく共感できるものであるし、少なくともアメリカにとっては英雄であるはずの彼を糾弾しようとする体質にも疑問を感じる。

皆が自分の仕事を全うしようとした結果幸せでない結末に至ってしまうのは悲しいことだが、よくあることでもある。
少なくとも本作は負の歴史からの教訓として、非常に意義のある作品と言えるだろう。
はる

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