りょう

アシスタントのりょうのレビュー・感想・評価

アシスタント(2019年製作の映画)
4.4
 「SHE SAID/シー・セッドその名を暴け」は2022年の作品でしたが、日本の劇場公開はこの作品よりも早かったようです。3年前に制作されながら、「SHE SAID」の2番煎じのような印象になってしまい、ちょっと不遇な作品です。あまりにもったいない…。
 映画制作会社に勤務する1人の女性アシスタントの1日を淡々と描写しています。カメラはほぼ固定で色彩も寒々としたものだし、劇伴もオープニングとエンディングに少しだけ…。ほとんどエンタメの要素はありませんが、この職場がどんなことになっているのかよくわかるし、その冷徹な演出がとても不気味です。
 類似の作品として、当事者の視点の「スキャンダル」とジャーナリストの視点の「SHE SAID」がありますが、この作品では、第三者の視点というところが意義深いです(パワハラでは被害者ですが…)。ハラスメントを防止する観点として、“第三者介入”の技法が注目されつつあります。彼女は無意識にそれを実践しますが、1人で対抗できるような加害者ではありません。職場も最悪レベルの風土だし、誰1人として働きがいを感じているようには思えません。
 主人公が新人アシスタントのことを“女の子”と言ったときに、人事部署の相談員のような男性が“女性”と訂正するところで“さすが人事”と思わせておいて、冷静にセクハラをモミ消そうとする展開がなんともリアルでした。彼の最後の一言も強烈なセクハラと侮辱です。この2人の会話のすべてが物語の核心を端的に表現していました。
 エンディングは主人公が退勤する後姿だけで何のカタルシスもありませんが、それがとても示唆的でした。ほとんどメッセージのような要素もないので、それがむしろ告発的な描写となっています。とても地味な作風ですが、職場のハラスメント研修の素材として最適な秀作です。
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