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アンダードッグ 前編のakihiko810のレビュー・感想・評価

アンダードッグ 前編(2020年製作の映画)
4.5
CSで視聴。前後編4時間半の大作。「百円の恋」の武正晴監督らスタッフが再集結。

一度は手にしかけたチャンピオンへの道......そこからはずれた今も〝咬ませ犬〟としてリングに上がり、ボクシングにしがみつく日々をおくる崖っぷちボクサー・末永晃(森山未來)。児童養護施設で育ち、過去にある秘密をもつが、ボクシングの才能が認められ、将来を期待される才能豊かな若きボクサー・大村龍太(北村匠海)。大物俳優の二世タレントで、芸人としても鳴かず飛ばずの芸人ボクサー・宮木瞬(勝地涼)。
リングの上で、人生から見放された三匹の負け犬たちのドラマが交錯する——。彼らは何を賭け、何のために戦うのか?どん底から立ち上がろうとするルーザーたちの姿が観るものの魂を救う!

登場人物は、森山未來を軸に3人のボクサーが交錯する物語。なのだが、この3人のボクサーの鬱屈感、人生の閉塞感がものすごい。
森山未來は泥沼離婚、アル中の父、場末のデリヘル(ここの人間模様がまた鬱屈していてものすごい)、勝地涼は2世タレントながら後輩含めて全員に軽じられる才能のない奴、北村匠海はボクシングの才能が有りながらも、元半グレ不良で元の仲間に復讐されてケガを負う。
3人のボクサーだけでなく、登場人物たち皆が「負け犬」なのである。そんな彼らがあがきにあがく物語。
4時間半かけて彼らの背景を描くので、本当に「背景の薄い登場人物」が一人もいないところが、一層登場人物たちの「泥臭い閉塞感」が描かれていて素晴らしい。

そして彼ら負け犬たちがあがく姿は全く持って無様で美しくない。しかしその美しくない姿が、なぜここまで心を打つのだろうか。いや、なぜ無様なのに、ここまで「美しい」のだろうか! そういう熱を全部ぶつけて作られた作品である。

ボクシングシーンも素晴らしい。試合はものすごい泥仕合なのだが、それをカメラワークで迫力満点に魅せる。とても息をのむ試合シーンになっている。

近年のボクシング映画といえば邦画では「百円の恋」の他に「BLUE」「ああ荒野」があるが、これらの作品群を圧倒的に引き離した作品と言えるかもしれない。洋画含めても「ロッキーシリーズ」や「クリード」に匹敵するかも。

負け犬たちの「人生への挑戦」を真正面から描いた傑作であり「人間賛歌」である。
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