菩薩

魚座どうしの菩薩のレビュー・感想・評価

魚座どうし(2020年製作の映画)
4.0
土砂降りの世界の中に一人でも傘を差し出してくれる人がいるならば、その子の世界も少しは幸せになるのかもしれないが、別れは時に唐突に訪れるものであり、その傘を返す宛すら分からない。父性は不在の様にも思えるが、あの優しさが父性の破片である一方で、見えない所にはどんと腰を据えた父性が存在している様に思える。みどりの父は船乗りなのだろうか、何にしても家族を省みることは無く、どうやら年末年始も家には帰らない。父性の欠如を宗教によって埋めようとする風太の母も、その日の糧を神=父に感謝し祈りを捧げる。最も高圧的である女教師も、おそらく職員室内の息苦しさの中では喘いでいるのだろう、頂点にいる校長はその組織の中では父に当たるのかもしれない。小学四年生、9歳と10歳の境目。長過ぎる人生の中での一番最初の関門を、魚座の者は他の星座の者に比べ遅れて潜る事を強いられる。抑圧の象徴たる教室を飛び出したみどりは、外履きに履き替える事も無く靴箱の前を通過し、校舎の外に飛び出す。小学四年生、女子はおそらく第二次性徴を迎え、男子はまだそこには到達出来ない。となれば最後みどりが風太を押し倒したのは、当然の帰結と言わざるを得ない。社会を取り巻く暴力の構造、理不尽にも下へ下へと向けられる暴力の行き着く先は、常に無力でか弱い生命体である。
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