耀加

シネマ歌舞伎 鰯賣戀曳網の耀加のレビュー・感想・評価

シネマ歌舞伎 鰯賣戀曳網(2021年製作の映画)
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2年前のお正月に歌舞伎座から生放送されたものを観て以来…中村勘九郎さん・七之助さんの生き生きとした演技、三島由紀夫の書いた作品だと知った驚き、今まで出会ったことのないほど晴れやかで楽しいお話、そういう要素を全部ひっくるめて大好きになったし、自分の中で大切にしたいと思うようになった演目です。
これほど幸福で明るくて楽しくて、愛嬌と純粋さと美しさをそなえていて、観客の笑い声までもが幸福の要素になっている歌舞伎は、私がそれまでみてきた演目のなかでも、もしかするとすべての歌舞伎の演目のなかでも、並ぶものはないのではないか、そう感じてしまうほどの澄みきった多幸感がどんな時にも舞台上に現れていました。
私は2年前の公演をテレビでみたときも、そこに生まれる空気に正月早々心が躍った記憶がありますが、今回のシネマ歌舞伎でも、中村勘三郎さん、坂東玉三郎さんお二方の輝くような演技にありったけの"ハッピー"を頂いたと思っています。
勘三郎の演じた鰯売り、恋を一途に考え、困ったり慌てたりする素振りが滑稽で、「快活さ」と「愛らしさ」の体現をみているようでした。表情の微細な変化、一挙手一投足に「おかしい」とか「微笑ましい」という笑いが生まれる、それってあの人は流れるようにテンポ良くやってのけていたけれど、ユーモアを自在に操った芝居の真骨頂を見せていただいたのだなと、映画館を後にして気づきました。
玉三郎さんの演じる女性、私にはいつも静かで厳かで近寄り難さすら覚える、凄みを放った美しさをみていましたが、なんだかこのハッピーな三島作品では、とある秘密を抱えながらも一筋に思う心の清さといい、終盤の花道で見せるフワッと花が咲いたような笑顔といい、初めてお目にかかる演技を新鮮に感じることができました。
楽しかった、こんなに素晴らしい舞台を遺してくれて良かったと心から思います。
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