こたつむり

その住人たちはのこたつむりのレビュー・感想・評価

その住人たちは(2020年製作の映画)
3.5
♪ 死に際の騎士 その手にグンニグル
  狙ったモノは必ず貫く

とても「いやぁ」な作品でした。
何しろ、主人公が「いやぁ」なんです。端的に言えば、過去の残滓にしがみ付き、嫉妬と羨望に心を焼かれながらも、表層はクールを寄り添うタイプ。

だから、何を考えているか分かりません。
彼の求めているものも見えません。けれども、周囲に“害悪”をまき散らしているのは明白。このギャップがとても「いやぁ」な感じで物語は進みます。

それでいて演出は無言ながらも雄弁。
蛇口からポタポタと落ちる滴が、貧困の証だったり、収まらない欲望の発露だったり。さすがはサスペンス大国スペイン。洗練されています。

また、観客を信頼しているのも確実。
主人公が「いやぁ」な感じの場合、着地点も「いやぁ」なところになるのがセオリーですが、本作はそんな常識に縛られません。これは相当の“覚悟”がなければ選べない道。

だから、唸っちゃうんです。
心を寄せられない主人公と監督さんの姿勢がダブり、石を投げたくても投げられないんです。他者の非難なんて物ともしないのが明らかですからね。僕も“無駄”なことはしたくないですし。

しかし、あえて言うならば。
さすがに、全てが上手く行き過ぎ…と言える脚本はどうなんでしょう?僕は他人を蹴落とせるタイプじゃないので「彼の真似をしたい」なんて思いませんが、でも、こんな簡単に話が進むならば…。

いやいやいやいやいや。
やっぱり、彼のような生き方は無理です。
海にぷかぷかと浮かぶクラゲの様に、あるいは冬のコタツで丸まるネコのように、争いとは無縁で生きていきたい僕には、他者を傷つけるなんてトンデモナイ!

まあ、そんなわけで。
積極果敢に「いやぁ」な気持ちになりたいときにオススメの物語。それでいて深淵まで落とされることはないので、簡単に日常生活に復帰できるのもポイントですね。色々な意味で、違いの分かる大人向けの作品だと思います。
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