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マッド・ハウスのYOKのレビュー・感想・評価

マッド・ハウス(2019年製作の映画)
4.3
過干渉(?)気味な父の元から一人離れ理想のアパートメントで暮らし始めたヒロイン・サラは、新居での不可解な出来事(夜な夜な部屋に響く謎の金属音、部屋に投げ入れられた手紙etc)に悩まされ始める…
そんな感じ。

映画の最初にサラが暮らし始めるアパートメントが以下にフレンドリーで楽しそうかを見せてくれる。これを見て「素敵!私もこんなところに住みたい!」と思うか、はたまた「人と人との繋がりが面倒くさそう…もっと個を大切に生きていきたい…」と思うかは人それぞれっぽい。

けどこの映画のタイトルは「マッド・ハウス」
ちゅーことはだ、このフレンドリーさが後々やばい事になるんだろうな、ってのはさすがに鈍感な私でもピンと来た。

明らかに怪しい人、爽やかでとても素敵な男性、かつては芸能界で華やいでいたものの今は1人で暮らす老女…などなど、キャラクターのバラエティは富んでる。

何かが変だぞ可笑しいぞ…?からの映画開始30分未満で状況が一気に展開するの、個人的に好き。どこまでもダラダラと怖がらされたり変な感じを引っ張られて「ラスト15分で急展開!」も悪くないけど、さっさとやばい状況になってくれた方が個人的にワクワクする。

ホラージャンルで且つカルト的要素があるので、頼んでもいないのに勝手に人の人生に介入してきて「君のためだ」「私のやり方に従え」「君を導いてやる」的な言動が見受けられる。やめてくれ、放っておいてくれの一言しかないよな。

閉鎖的な世界から飛び出して一人暮らしを初めて何とかやっていこうとするサラが、またしてもこうして閉鎖的な世界に無理やり閉じ込められるの、心が弱い人だったら「私はどうせこうやって人に縛られて生きてくしかないんだ…」ってなってしまいそうな怖さがあった。

非暴力で這い寄るよう闇のようにじわじわとコミュニティの一員に取り込んでしまう映画が「ミッド・サマー」だとすると、この映画はもっと暴力的で洗脳的で支配的なものがある。そしてどちらも『役に立たないモノ(人)は排他する』描写があるのがなんとも言えない感じ。

ヒロインのサラの表情が個人的に上手いなって思ってさ、死んだ目で口元だけ弧を描くのとか、時たま見せる意思の籠った目とか良かった。目線で演技できる人いいよね、もっともっと活躍して欲しい。

ミッド・サマーが病的に好きな私なので、サラが無事洗脳されてしまうエンドでも、その逆のサラによる大逆襲劇でも私は受け入れるぜ!ってノリで観ていたので、個人的にはかなり久々にどストライクな作品が観れたなって。レスターありがとう、君の銅像を建てようじゃないか。

マッドなのはこのアパートメントだけじゃねえぜ!な終わり方も好きだし、えー!?この後どうなるのー!?なラストではあるものの自分は好きな終わり方。本当の監視者は誰か…が理解出来た時のゾッとする感じ、これぞホラーよ。

作中でもちょこちょこ流れるエンドソングも良き。歌詞はロマンチックで素敵なのにこの映画に使われていることで「絶てぇに逃がさねぇ」的な病的な程の執着を表している歌詞に聞こえるのがいい。普通に怖い。

ハッピーエンドやサラによるイカれたメンバーへの大逆襲を望んでいる人には物足りないかも知れないけど、そもそも洗脳って本当にできるんか?恐怖で支配してるだけとちゃうんか?って疑問の目でサラの行方を見守れる人には楽しめる作品なのでは。

個人的にはめっちゃ好き。見え隠れする(と言うよりはだいぶオープンな)住民たちのイカレっぷりと、関わったら人生詰む感がまじでゾッとした。

メンタル弱弱な私だけど、何があろうとプライバシーもなしに善意の押し付けと恐怖で支配するような一団には関わりたくないっす。熨斗付けてお返しするっす、って心底思った。
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