風の旅人

TITANE/チタンの風の旅人のレビュー・感想・評価

TITANE/チタン(2021年製作の映画)
4.0
何の理由もなく、殺人を犯したアレクシア(アガト・ルセル)が、行方不明の息子の幻影に囚われた消防士ヴァンサン(ヴァンサン・ランドン)に出会うことで、「愛」という物語に組み込まれていく衝撃作。

幼い頃に事故で頭にチタンプレートを埋め込むことになったアレクシアは、車に並々ならぬ愛着を抱き、大人になってモーターショーでコンパニオンをしていた。
ある日、ファンの男性に執拗に迫られたアレクシアは、衝動的に男性を殺してしまう。
家に帰り着いたアレクシアがシャワーを浴びていると、家の前にモーターショーの車が現れ、アレクシアは車とセックスし、「何か」を妊娠する笑

真面目に受け止めればいいのか、冗談として笑えばいいのか判断に迷った。
身体的な痛みは嫌と言う程伝わってきて、思わず目を背けたくなる。
しかしアレクシアとヴァンサンのやり取りはコントのような面白さがある。
ヴァンサンはステロイドを注射して老いに抵抗するマッチョな親父で、アレクシアが殺そうとしても抵抗され殺せない。
二人は共依存の擬似家族を形成する。

もはや詰め込み過ぎで何の話かわからない。
女性性を武器に働いていたアレクシアが、殺人を犯し逃亡犯になったことで男性に変装し、男性性の権化のようなヴァンサンと出会い、家父長制的な社会の中で男として生活する。
車を男性性の象徴として、女性の妊娠による身体変化の恐怖を描くと同時に、アレクシアの女性から男性へのメタモルフォーゼ(変態)を通して、既存のジェンダー観(男らしさ・女らしさ)を破壊していく。

アレクシアが逃げようとして乗ったバスの中で、男性の集団からちょっかいを出された女性と見つめ合い、男性に性の対象として見られることの嫌悪感を共有するシーンが本作の白眉。
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