りっく

アントキノイノチのりっくのレビュー・感想・評価

アントキノイノチ(2011年製作の映画)
2.0
本作は<生>と<死>について扱った作品だ。特に<死>については、グロテスクで目を背けたくなる描写が含まれているので面食らった。例えば、孤独死した家の中に湧き出るウジ虫の大群やゴキブリ。あるいは、ワンカットで映し出される飛び降り自殺。いかにも<死>を真摯に扱っているような姿勢だ。

けれども、それはただの欺瞞的な姿勢だと思わずにはいられない。学校の屋上から自殺した生徒は前のめりになって飛び降りたはずなのに、次のカットでは仰向けになって血を流して倒れている場面が象徴的だ。確かに、役者の顔が見えないと撮影側からすれば不都合であろう。だが、本作の核となる<死>を直接的に描く重要な場面で、整合性が取れない演出を平気で行う作り手。要は、そこまで作り手の神経が行き届いていないのだろう。にもかかわらず、<死>を正面から描いている態度に腹立たしさを覚える。

この<死>についての扱いに終始違和感がある。どこか<生>を引き立たせるためだけに、<死>を描いているようにしか思えないのだ。特にラストシーンのあまりにも軽率に描かれる<死>、さらにその<死>の対象には正直落胆してしまった。極端に言えば“「アントキノイノチ=犠牲になった他人の命」があるからこそ、今の自分の命がある。だから命は繋がっているのだ”という論理を証明したいがために、文字通り人間の命を犠牲にしているようにさえ見えてきてしまう。

この「自分本位の思考」が至るところで透けて見えてくるからこそ、胸糞悪い気分になってくる。例えば、遺品整理を通して自分たちの過去と決別しようとしている主人公もそうだ。職域を越えてまで遺族に自分の思想を押し付けるために、家まで手紙を届ける場面などその極みだろう。たとえ主人公にどんなトラウマや背景があろうと、だからと言って何でも許されていいということでは決してない。
 
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