イルーナ

ゴリラのアイヴァンのイルーナのレビュー・感想・評価

ゴリラのアイヴァン(2020年製作の映画)
3.4
実在した絵を描くゴリラ、アイヴァンの話をベースにした伝記映画。
すごいですよねゴリラで伝記が作られるなんて。
昔はゴリラ=野蛮で狂暴のイメージがあったけれど、近年ではむしろ繊細な性格であることが知れ渡ってきています。
本作でも穏やかな性格と、人間の客が観たがるものとのギャップに思い悩む姿が描かれていました。そもそもあれは芸ですらないしね……
日本だとまだまだキャラクターものでも力自慢の脇役扱いされがちですが、こうして伝記が作られるあたり、時代の移り変わりを感じますね。
しかし、同じ配信限定となった『実写版ムーラン』、『ソウルフル・ワールド』、『あの夏のルカ』と違って、CMすら見かけなかったため知名度がまるでない。昨年公開の作品でありながら、ここでもレビュー数がとてもディズニー作品と思えないくらい少ないので、真の意味で不遇な作品かもしれません。

本作は実写で、動物たちはフルCGですが、リアルとデフォルメのさじ加減が絶妙でした。
動物たちはリアルそのもので、アニメチックな表現はほぼないのですが、喋っている場面でもまったく違和感がありません。
すごい自然に見れてしまうからびっくり。

ルビーとの出会いや、ステラの遺言がきっかけで、自然の中で自由に生きるという夢を抱くようになるアイヴァン。
普通なら脱走作戦を企てて成功!となるのですが……あっけなく失敗。
代わりに絵を描く、つまり心の内を思うままに表現して人間たちから認められることで、自由になる足掛かりを得る。
絵的にも派手な脱走作戦を描くのではなく、自己表現するという描き方が新しいですね。
しかしそれは、住み慣れたサーカス団が解体されることや、親代わりのマックとも別れることを意味していた。
本作は動物どころか、人間キャラすら善人しかいないから、夢を叶えることの代償というテーマがじんわり来る。
勤め先を失った人間たちのその後が気になってしまう人も多いのでは。実際私もそうだった。
ボブの「二つに一つってのがつらいよな。自由を選んだら食うもんに困るし、安全でもなくなる。でも、安全を選んだら、狭い檻で人間のために芸をやる毎日。どっちもどっちだ」という言葉が、本作のバランス感覚を象徴しています。
まあエンドロールで普通にマックと再会しているんですけれどもね……

ただ、サーカスを描いた話にしては、時代の流れとは言え過酷な面がほとんど描かれてないから、「自由になりたい、自然に帰りたい」というテーマがやや響きにくい気がする。
動物たち、わざわざ脱走しなくても快適そうに暮らしているしね……
むしろアイヴァンがマックから自立する親離れの話として見るべきなのか。

あと一点気になった所が。
あの虫を「カブトムシ」と呼んでいたけど、どう見ても「コガネムシ」ですよね……
「Beetle」の単語は日本では「カブトムシ」と訳されることが多いですが、本来は甲虫全般を指す言葉です。

2023/5/20の追記
ディズニープラスで、オリジナル作品を含めた数十の作品が5/26に配信停止とのニュース。打ち切られたドラマ版『ウィロー』などの他にも本作の名前があって驚きました。
本作って少なくとも日本ではソフト化されてないよね?てことは事実上の封印作品になってもう観られなくなるの?!
実際、マック役のブライアン・クランストンがインスタグラムにて「本作が永遠に消えてしまう前に、この週末にぜひ見てください」と悲しすぎるコメントをしていましたし。マジで封印作品になってもおかしくない立場なのかもしれません。
イルーナ

イルーナ