MitsuhiroTani

ノマドランドのMitsuhiroTaniのネタバレレビュー・内容・結末

ノマドランド(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

美しい荒野の風景と、作中に登場する詩の力が印象的な作品。
19世紀の終わりから20世紀初頭の世界的に不景気な時代。
土地から土地へ働きながら渡り歩いた渡り鳥労働者のことをホーボーと言う。
この作品に登場する放浪者は、米国の開拓者的DNAが生み出したこのホーボー文化の継承者として誇りを持っている。
ただ、放浪者の誰もが、固定された共同体で生きる定住の魅力を、自ら捨ててきた訳ではないことにリアリティがある。
誇りだけでは生きていけない現実。貧困や孤独と高齢化が常に付きまとう。クリスマスから新年。定住者の多くが家族や仲間と過ごす時間も、放浪者にとっては生死と向き合う時間。
本作の主人公も、自ら望んで放浪者となった訳ではない。だから、貧困や孤独の中、温かく迎えてくれる人々や定住の機会に、何度も心が揺らぐ。ただ、彼女は、定住と新しい共同体での密度の濃い幸せな人間関係によって、亡き夫との慎ましくも幸せな暮らしの思い出が消え去ることを恐れている。
高齢化する中で、ますます深刻になる貧困と孤独。ただ、同じような悩みを持つ人々が、柔らかな離合集散を繰り返しながら互いを束縛しない揺らぎのある集団を形成し、その時その時で、自らの居場所を確保し、そこで出会った人々と、肩の力を抜いた、飾り気のないスタンスで、適度な距離感の人間関係を構築するノマドの暮らしに出会い、あてなく彷徨う放浪者から、思い出の地を巡るノマドに変わっていく。

丸の内のオフィス街に勤め、通勤で電車でタワーマンションが建ち並ぶ街に帰り、自宅でMacBook Proを開き、Amazon Prime Videoで本作を観た。同じ時代、同じ時間に、余りに違う環境で生きる人々。
ただ、彼らが臨時雇用で働く場所がAMAZONであり、妙に繋がりを感じた。そして、何故か過去に旅したアラスカやオレゴン、スコットランドのグレンコー、中国北西部の荒野を思い出し、心がざわついた。
MitsuhiroTani

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