たま

いつかの君にもわかることのたまのレビュー・感想・評価

いつかの君にもわかること(2020年製作の映画)
4.5
“窓”
ジョンは清掃員。
磨く窓から見える、幾つもの世界。
温かな家庭…ショーウインドウのきらびやかな商品…
窓に反射する、街の賑やかな光景。

窓が世の中を映している。
窓の向こう側に見える、それぞれの人生をジョンは客観的に眺める。

とても静かな映画。
状況や感情を、言葉で表すことは無い。

余命幾ばくもない33才のシングルファーザーが、4歳の息子マイケルの里親を探す物語。

そこにあるのは深い深い愛情だけ。
生への渇望や死への恐怖、悔恨や絶望も無念さも見えない。

ただただ、息子を抱きしめる。優しく撫でる。頬を寄せる。一緒に本を読んだり遊んだり、これ以上出来ないくらいの愛情を注ぐ。
なんて愛おしい日常なんだろうか。

死についてジョンがマイケルに語るシーンは切なくも優しい。

ジョンは、多くの里親候補と対面するけれど、より良い家族を望めば望むほど、悩めば悩むほど、決断が出来ずに苦悩する。親身になってくれるソーシャルワーカーもいるけれど。

薄い灰色の曇り空に放たれた赤い風船、
バースデーケーキに刺した赤いろうそくの数々、赤が印象的に使われている。
そしてラストには赤いドアのアパートが映る。

そこには、自分自身が痛みを経験し、ジョンの心情を最も理解できる人。
私も同じ選択をしただろう。

それぞれのラストの表情が、あまりに印象的で忘れられない。

悲しいはずのストーリーなのに、なんて心温まる映画なんだろうか。
たま

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