りょう

いつかの君にもわかることのりょうのレビュー・感想・評価

いつかの君にもわかること(2020年製作の映画)
3.8
 ウベルト・パゾリーニ監督の作品は、「おみおくりの作法」を最近観たばかりで、どちらも“死”をテーマにした作品でした。監督がこのテーマにこだわりがあるのか、どちらも穏やかな演出ながら、ちゃんとメッセージが感じられる秀作です。
 日本でもこういうシチュエーションの親子がいないわけではないと思いますが、親戚や養護施設にあずけられることなく、養親をマッチングしてくれる公的システムがあるなんて、イギリスの福祉政策は素晴らしいと思いました。
 ジョンの病名や余命はわかりませんが、彼が自分の“死”と向きあうようなシーンがありません。もうとっくに終えているのか、息子のことを想うあまり、自分のことにはかまっていられないのか…。何組か登場する養子を探すカップルには、それぞれ個性がありますが、1人だけシングルの女性がいて印象的でした。
 マイケルを演じた子役さんは、どこまでが演出でどこからが“素”の言動なのかわかりませんが、こんな自然な振舞いと表情を映像化できたなんて、ほとんど奇跡的です。すごく穏やかで優しい彼の表情は、父親の養育のおかげなんでしょう。マイケルが父親との離別を理解するときのことを想うと、どうにも悲しい気持ちになりますが、あえてそこを表現しない演出は、この作品が“泣かせる”だけの映画になっていないことを意味しています。
 エンディングがジョンの決断を意味するのかどうかわかりません。一瞬だけ「それでいいの?」と思いましたが、マイケルと一緒の目線で生活できる相手という意味では、いい選択だったと確信しました。マイケルがなんとも言えない表情で、そのまま暗転するタイミングに悶絶です。
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