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映画大好きポンポさんのohassyのレビュー・感想・評価

映画大好きポンポさん(2021年製作の映画)
3.8
映画を始めとした映像制作に携わっている人になぞの高揚感をもたらしてくれる本作。
原作漫画も時々ふと読み返したくなるほどで、時々読み返したくなるのはおそらく、ものづくりに対しての正論を浴びて「そうだそうだ」と思いたいから、だろうと思う。

映画の妖精であり映像制作に携わるすべての人にとってのミューズ・ポンポさんは、当たり前のように正しい判断と行動力でどんどん素敵な映画を生み出すのだけれど、もちろんそこにリアリティは無くて、ほぼファンタジーと言っていい。
ただ、彼女の言葉・行動には圧倒的な「正しさ」があり、それはクリエイティブに少しでも携わったことがある人間なら必ず持っている考え方(気持ちと言っていいかもしれない)だ。
そこを、少女に受肉した映画の神様がツンツンと刺激してくる。
あのビジュアルだからこそ、だろう。
もしデザインが大人の女性であったらこうはいかない。

登場するすべての人物がそれぞれに理想的なスタッフ像を具現化したキャラクターで、それはもう打てば響く人ばかり。
冴えない映画オタク・ジーンが映画作りの才能を開花させ、あっという間に頂点に上り詰める様は、2つの太陽が沈む砂漠の星でくすぶっていた青年が宇宙を救うSFファンタジーとリアリティの質は何ら変わらないとんでもなく荒唐無稽な物語。
一方で飛び交う専門用語や会話の端々に登場する名作の数々、仕事の内容などはリアリティに満ち、いちいち誰かを連想せずには居られない登場人物たち(1番わかり易いのは名優マードック=マーロン・ブランド)も実在感たっぷり。
ポンポさんはもちろん実在感からは程遠いが、「ありえない」「バカバカしい」とも言い切れない。
そんな不思議なバランスで引かれたリアリティラインが、アニメという表現方法とよくマッチしている。

映像制作関係者にとってヒーローばかりが登場するサクセスストーリーは、まるで勧善懲悪モノを鑑賞したような爽快感を与えてくれる。
本作では原作には登場しない、ジーンと対を成す存在のアランが登場し、さらに分かりやすくカタルシスを形成する。

でも、映像関係じゃなくても、誰にでもどんな場面にでも「正しさ」っていうものはあって、「分かっちゃいるけど気づかないふり」「なんか違うなってどこかで感じながら過ごす」、そんなことは常日頃起こっているわけで、たとえ映画や映像制作、クリエイティブに関わる人でなくても、本作が堂々あっけらかんと突きつけてくる正しさは小気味良く感じられると思う。

ブラドックの声は原作を読んだときから勝手に大塚明夫さんで脳内されていました。
あと来場者特典の書き下ろしコミックに「後編」って書いてあって、できれば前編読みたい。
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