ねまる

新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』のねまるのレビュー・感想・評価

3.8
昼の部夜の部合わせて6時間。
NHKで放送したやつに字幕をつけて観たのは正解でしたね。中島かずき節な阿弖流為と違って(阿弖流為も追記したよ)、昔の言葉や物語の設定に関わる言葉が多くて、映画しか知らない初見ではついていけなかったと思うから。
それでもまだ、理解しきれてない余白があるんだけど、それがジブリのお楽しみだよね。

ジブリ×歌舞伎。
ナウシカは全7巻の原作で、映画は1〜2巻の部分だけだと初めて知った。
歌舞伎版を見て、物語の深さに、原作も読んでみたいと思ったし、アニメで知るナウシカの演出やアレンジに歌舞伎って凄いと思ったし、
どちらの評価も上がるこのコラボ大成功じゃん、と思いました。

まずあの幕。
新橋演舞場に行ったら、視界いっぱいにあの幕がひろがっていて、さぞ美しかろうと惚れ惚れしました。それ以外にも、1部しか出てこなくても、毎度毎度凝った背景美術の数々。テトや蟲の生き物から、背景の絵まで、どれもお金がかかってるなぁ、、、という本物感。このクオリティでぶつけられたら、圧巻ですよね。

で、演者。
私は平伏すよ、クシャナ殿下に。
下調べの時点から、ブロマイドが飛ぶように売れた伝説や、花道に現れた瞬間から目をハートにさせて劇場ごと抱いて去っていた、など原作ファンをはじめ、観客の心の掻っ攫っぷりが話題になっていたと、読んだけど、まぁもうね、画面からシュッパーンってなんかね、光線みたいのをくらったよね。

女形ではあるんだけど、あの外見の美しさで、勇ましい言葉の数々が出てくるギャップに惚れました。
「毒蛇の罠で妾は死なん」
「しょせん血塗られた道だ」
「私腹を肥やす豚どもに情けは無用」
「地獄の門を開けようぞ」etc...
あとは、母親、父親がらみで見せる、人間らしい表情も好きになっちゃうポイントでしたね。
あんなに恨んでた兄が呆気なく死んで、妾の死が近づく中で、ナウシカのメインテーマに乗せて、ねんねんころり、ねんころり、と歌うところ、後ろの蟲の小道具も含め神シーンでしたね。

ああ、尽きないので、次!
ユパとアスベル。尾上松也のコメディっぷり、特にテトとの追いかけっことか、ユパという役柄も含めて、このこの年齢(30代)でやるって格が違うなと。
最期のシーンは不覚にも泣きそうになりました。
あと、アスベルとの大水のシーン。絵面的にも、ド派手で楽しいし、その後花道でも大暴れしてくれたのワクワクしましたね。

クロトワも、ナムリス&ミラルバも、ケチャも、マニ僧正も、道化も、皆さまほぼ他の世界では知らない人たちだったけど、流石でしたね。

逆に言うと、主演が大きなテーマや複雑なストーリーにキャラクターが飲まれちゃった感がなくはなかったかなぁ。ナウシカって、もっと強く賢く気高い王道ジブリヒロインだと思ってるから、達観しちゃって掻き回すような立ち位置に違うなぁと思った。
再演版でクシャナが主演なったのは、この辺りのカバーなのかなと思ったり。可愛いケチャ役の方のやるナウシカの方が合いそうかな。

という合わなかった点もあるにしろ、ナウシカの世界観を6時間満喫出来たこと、歌舞伎の伝統芸能として昇華したこと、
新作歌舞伎として素晴らしいものを見せていただいたなぁと感動しました。
ねまる

ねまる