デニロ

狼をさがしてのデニロのレビュー・感想・評価

狼をさがして(2020年製作の映画)
3.5
原題は『東アジア反日武装戦線』。ディズニーの動物ファンタジーじゃありません。

1974年、丸の内三菱重工本社ビル爆破事件はとても嫌な感じがした。それは無辜の通行人が犠牲になるということ、戦場とはそうしたものだと知ったからに他ならない。かんがえてもかんがえても頭の中では葛藤が渦巻く。かんがえついたのは自分自身がそんな犠牲者にはなりたくない、そして他人も。そんなことだった。だから冷徹な根柢的な革命家にはなれない。レーニンや毛沢東やカストロにはなれない。チェのTシャツは着られない。

彼らは当初、日本の原罪を象徴する有形物を爆破していたが、日本国憲法にある生きた象徴を狙うようになる。曰く、昭和を終わらせる虹色の計画。計画挫折後、先の爆破事件となり、そののちにアジアを搾取していると彼らが見做した企業を対象とした爆破事件を起こしたが、警察も全力を挙げ翌年には検挙される。検挙後、徐々に背景が分かってきたのだが、三菱本社ビルに使った爆弾の威力は彼らにとっても想定外の破壊力で、動揺したメンバーもいたと知る。わたしはその動揺に興味を持っていた。

本作を撮ったのは韓国のキム・ミレ。自身の父親のドキュメンタリーを撮っている最中に日本の釜ヶ崎に行き当たり、そこで東アジア反日武装戦線被告の支援者を知る。キム・ミレは東アジア反日武装戦線が反日を標榜していたことに興味を持つ。日本の若者が日本の過去の帝国主義的在りようを現在に迄更に追及しようとする根源に興味を持つ。キム・ミレは逮捕された彼らの行動の原点とその後を追い、彼らの変化を映し出そうと試みる。わたしの興味と重なる部分も多く、その真摯な追及に引き込まれる。

反日というと、今ではスタンダードな歴史観ですら自虐史観的と評価し、その歴史観をもって自国を貶める輩としての反日日本人を指すようになっているようだが、明治維新から日中、太平洋戦争の間に日本が行ってきた帝国主義的態度に対抗する東アジアの国々の抵抗のことだ。未だにそう言われ続けてしまうことにわたしは想像力を共感力を働かせる。キム・ミレは彼らが反日を標榜したことに思いを寄せながら、そして、自分の国韓国が今アジアの中でどのようにふるまっているのかに思いを馳せる。

本作でキム・ミレは、東アジア反日武装戦線を通して近代日本の原罪を暴こうとするでもなく、爆破事件そのものを断罪するでもなく、自らの生きるこの世界であらゆる想像力を働かせようと訴える。この世界には今も目的のために手段を正当化する様々な行いがあり、それが世界を上と下に歪めてしまっている。
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