りょう

対峙のりょうのレビュー・感想・評価

対峙(2021年製作の映画)
4.0
 とてもシンプルな設定と描写ですが、4人による密室の会話劇は、それぞれの感情を表現する多彩なカメラワークで、ほとんどマンネリ化しないところがすごかったです。
 「赦し」がテーマでしたが、その本質から少しズレている印象でした。当事者である加害者は自死しているので、「赦し」の対象はその両親です。被害者の遺族は加害者の責任を追及する権利がありますが、加害者の両親は、息子の義務を承継(相続)しなければ、直接的な責任はないはず…。被害者の処罰感情が加害者の家族に向かう現実があるとしても、やっぱり理不尽です。この夫婦は被害者やその遺族たちに「償い」をしたいのでしょうが、加害者である息子のことも大切なので、4人の会話がどうにもちぐはぐでした。
 後半に被害者の母親が「赦し」を宣言しますが、その理由にも共感できません。息子の死と向きあって、自分の人生を前進させることが目的なら、その「赦し」は偽りでしかないはずです。ただ、それは誰もが日常的にやっていることで、自分の感情をごまかして“折合い”をつけなければ、最後には精神が崩壊してしまいます。ある意味で仕方のないことです。加害者の母親は、その「赦し」に呼応するように、最後には1人で“あるできごと”を告白しました。この2人の母親は、ネガティブな感情が多少なりとも緩和されたはずです。
 悲劇から6年が経過したとしても、4人の複雑な感情が僅かな時間の会話で相互に理解されるはずもありません。父親の2人の“和解”はどこか表面的だったのが印象的です。加害者の両親には、他に9組の被害者の遺族がいるはずです。すべての遺族たちと「対峙」するのなら、彼らの残りの人生は贖罪のためだけにあるのかもしれません。
 なんだか悪口ばかりになってしまいましたが、とても重厚なテーマをリアリティのある映像で表現した秀作です。2024年2月6日には、ミシガン州で2021年11月に発生した銃乱射事件で、加害者の少年(当時15歳)の母親が過失致死罪で有罪になったというニュースがありました。アメリカの法秩序はよくわかりませんが、ケースによってはあり得るということなのでしょう。
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