KnightsofOdessa

メモリー・ボックスのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

メモリー・ボックス(2021年製作の映画)
2.0
[レバノンと母娘を結ぶタイムカプセル] 40点

2021年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。ドゥニ・ヴィルヌーヴ『灼熱の魂』と同じく、レバノンからカナダに移住してきた一家の物語。モントリオールで大雪のクリスマスを過ごす少女アレックスのもとに、母親宛の荷物が送られてくる。祖母は送り主についてはぐらかし、母親には内緒だぞと言い含めて地下室へ押し込むが、結局バレて例年より更に冷え込んだクリスマスを迎えることに。アレックスは荷物を紐解き、レバノン戦争中に若かりし頃の母親が記録したノートやテープを年代順に追っていくことで、彼女が頑なに隠す記憶を追体験することにする。この前半部分は隠したい過去がある母親に対して、子供だからとはいえやりすぎな強引さで過去をほじくり返していくので中々抵抗がある。また、強引に参加させられた母親が爆速で娘を許して語り部を交代するが、娘の想像としての追体験と母親の記憶が等価の過去挿入映像として描かれているのに違和感ありまくり。間を結構すっ飛ばして母娘の和解からレバノンとの和解まで結びつけちゃうのも希望的だけどかなり強引で、特に終盤の展開はどう見たら良いのかよく分からなくなった。このラストは、これはこれで面白いし画期的なんだけど、前後の接合があまりにも雑すぎない?

本作品は監督の母親の記録を基に再構築したものらしく、作品自体が自身の子供へと捧げられていることからも分かる通り、虚構を用いて現実に血肉を与えていくタイプの作品である。同様の手段を取る作家として思い出すのは天才ソフィア・ボーダノヴィッチ(奇しくも同じカナダの作家)だが、正直本作品は彼女の足元にも及ばない。"新世代のメモリー・ボックスはこれだ!"みたいな感じでカメラロール出してきたり、母親の写真をスマホで撮って共有したり、パラパラ漫画みたいにして動画化したりする感じはちょっと過剰でウザかった。
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