りっく

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のりっくのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
4.0
横溝正史的な日本のムラ社会の反吐が出るような悪しき因習と、戦後復興や高度経済成長を遂げた歴史の影でアジア太平洋戦争以来何も変わっていない大義のための犠牲という弱者切り捨ての腐った日本の体制を、妖怪怪奇もののおどろおどろしさや禍々しさと接続させた脚本がお見事。

弱者の生き血をすすって富豪として繁栄し生き長らえるというシステム、それが実際に行われている野戦病院のような光景はまさに戦争そのもののメタファーであり、美化されがちな昭和日本のノスタルジーの裏側で隠蔽される負の遺産や歴史を、強烈な怨念で描き切る。

それでいて、ゲゲゲの鬼太郎という物語や目玉おやじと鬼太郎という関係性に見事に接続させてみせるのだから恐れ入る。エンドクレジットから最後にタイトルが出るまでの流れは完璧で、カランコロンという有名な主題歌が、虚無と悲哀と哀愁をもって胸に深く染み入ってくる。

こんなクソみたいな世界、そしてその世界は現在も根本的には何も変わっていないという虚無感。そんな圧倒的なニヒリズムの中で、ノワール的なアウトローである主人公は、命を継承し、物語を継承することに僅かな希望を見出し、それを現在に託す。このバトンの重み、哀しみ、苦しみを鬼太郎だけでなく、いまを生きる日本人にも確かに届けてみせた。
りっく

りっく