BON

悦楽のBONのレビュー・感想・評価

悦楽(1965年製作の映画)
-
官能と幻想の狭間にハマり、破滅の道を歩む男を描く。

一方的に想いを寄せる女のために、かつて彼女を暴行した男を殺害した男。ある日、現場を目撃したという汚職官吏が現れ、罪を見逃す代わりに自分がムショ暮らしする5年間、横領した3,000万円を預かるという契約を交わす。

残り1年という時に、彼女の結婚式の招待状を受け取り絶望する男。空洞になった彼は約束を破り、金が尽きたら自殺しようと決め、金をばら撒き彼女の代わりとなる女を次々と貪り替える…という物語。

男の想い人には「和製ブリジッド・バルドー」と呼び声高い最高にキュートな加賀まりこ。1人目の女・ホステスでヤクザの愛人役は鈴木清順のミューズともいえる野川由美子。借金苦にあえぐ亭主を持つ被虐的な2人目は八木昌子。処女で女医の3人目は樋口年子。4人目は異常な性欲を持つ知恵遅れの売春婦。案じるのは清水宏子。そして罪悪感と強迫観念に徐々に蝕まれ、現実との境目が曖昧になっていく自暴自棄な男を演じたのは中村賀津雄。

60年代の銀幕を飾るアイコンたちが乱れ合い、セックスも金も社会も、信じていた愛さえも腐敗していて最初から運命づけられている絶望の旅に漂う。不協和音のように響く音楽と、奇妙なカメラワークと、小洒落た雰囲気がヌーヴェル・ヴァーグのようでジメジメ、ギトギトしている。

うだつの上がらないサラリーマンにはもともと加賀まりこなど手に入る存在ではなかったのに。そういうのって人生であるよなと思い憐れな男に同情してしまう哀愁というかどうしようもなさいっぱいの作品だった。
BON

BON