ぴろ

流浪の月のぴろのネタバレレビュー・内容・結末

流浪の月(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

【「普通」とは何か 偏見と差別の果てに、男女は何処に流れ着く】

「いいの。どうせ人間なんて、みんなどっかちょっとずつおかしいんだから」
『言の葉の庭』でヒロインがこぼした言葉を思い出した。

凪良ゆう原作『流浪の月』。帰る場所を失くした少女と、ある秘密を抱えた孤独な青年の数奇な関係を描く。

本作が一貫して問いかけるのは、「普通」とは何か、ということだ。主人公2人はそれぞれ、小児性愛者の誘拐犯と傷モノにされた元被害女児というレッテルを貼られ、世間から徹底的に異端視される。しかし、彼らを「普通じゃない」と糾弾する側だった亮や谷もまた、その心のうちに歪みや傷を抱えていた。
「人間なんて、みんなどっかちょっとずつおかしい」
では「普通」とは何なのか。「常識」とは?「正しさ」とは?
そんなものはない。と、本作は答える。一つの出来事を、皆が皆自分勝手な解釈しているに過ぎないのだ、と。

登場人物たちの内に秘めた苦悩、そしてそこに至るまでのそれぞれの人生を緻密に作り込んだストーリーと内面的人物造形が素晴らしい。さらに、それを遺憾なく表現しきる俳優の演技力、監督の映像表現、演出の数々。全てが完璧だった。

印象的だったのは、文の実家の離れにあったサンキャッチャー。カットされたクリスタルガラスが太陽光を屈折させ、虹色のプリズムの欠片を室内に散らす。私にはこれが、作中で描かれる登場人物たちの心の屈折や、人間という存在の多面性を象徴しているように思われてならなかった。しかし同時に、ひどく美しかった。

現代を生きる人々は皆、それぞれの傷や苦しみを抱え、「普通」から外れることに怯え、孤独に打ち震えている。しかし、それでも生きていく。何度も立ち止まり、迷いながらも、自分の人生を歩んでいく。そんな人間の営みは、サンキャッチャーの光のように美しく、色彩に満ち溢れていると、私は思う。
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