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ブルー・バイユーのYOKのレビュー・感想・評価

ブルー・バイユー(2021年製作の映画)
4.3
ちっとも来れぬままにギンレイホールの年パスが今月末で切れてしまうので慌てて観に来た。本日の1本目、「ブルー・バイユー」

「ブルー・バイユー」と聞いて思い出すのがディズニーランドにあるカリブの海賊に乗ると序盤でお食事している人を流しみることが出来るレストランなんだけど、私は訪れたことがない。どちゃくそ偏食は私には似つかわしくないレストランなんだよな。

ちなみに「ブルー・バイユー」とは日本語で「青い入り江」って意味らしい。またひとつ勉強になってしまった。

そんなレストランとは全く関係ない今作のあらすじは、【養子としてアメリカにやってきた韓国生まれの主人公がこの地で家族を作り仲睦まじく暮らしていたものの、逮捕をきっかけに過去の書類不備が顕になりい違法移民扱いになり強制送還の聞きに陥り、とある決断を下す…】というもの。

とある決断、って逃走?と今日も元気にIQが3しかない私は予想立てて観た。実話かな?って感じるくらいリアルにありそうなあらすじなので突拍子もないこと(エイリアン襲来、隕石追突の危機、倒れていたおじいさんを助けたらお金持ちだったetc)は無いだろうってのはさすがに分かった。

監督、脚本、主演が同じ人という、ポストクリント・イーストウッドみたいな作品なんだけど、いやはや凄い。


※以下、ネタバレを含む




観終えたあとの感想が「じゃあ、どうすれば良かったんですか?」の一言でしか無かった。

主人公のアントニオは1998年に養子として3歳でアメリカにやってきたんだけど、市民権を得られる法律が制定されたのは2000年。アントニオは里親を転々とし、どの親も市民権を得る手続きをしてくれず、最後に引き取られた家では虐待を受けて、大人になって市民権がないことを知り強制送還に…って、いや、彼にどうしろと???

大人の都合で養子に出される子供が「僕があなたがたの子供になるということは、つまりあなた方と同じ国で永住し暮らしていける権利を得られるということですよね?まさか大人になってから国外追放なんてことは無いですよね?」って聞くわけねえだろ、って話なのよ。

日本では国をまたいだ養子縁組なんてほぼ聞かんし、なんなら日本国内でも養子縁組って少ないのでは?と思っているので、どうしてこんなことになるのかピンと来なかったし、理不尽な法律!と憤ることしか出来なかった。

確かにアントニオにも前科二犯という過去はあれども、永住権に関しては悪いことをした訳では無いので法律で罰する前に、そうした法律ガバガバ時代に大人の都合でアメリカにやってきた子供らをどうして法律が救えないのかと思った。

アントニオが出会うベトナムからの難民で移民の女性が本当にいい役どころ。「同じ船に乗って全滅を避ける」ってセリフが全てを物語ってしまっていたように思う。

一緒にいた方がいい家族もいれば、一緒にいない方が良い家族もいる。辛いけどそういうことなんだろう。個人的には「なぜアントニオ一家が一緒にいてはいけないのか!???」とチェ・ゲバラのポーズで訴えかけたいけど、あまりにも法律が巨大な壁すぎた。辛い。

アントニオの妻の元夫もガンなんだけど、それ以上に元夫の同僚がクソクソのクソofクソで、クソでしか無かった。俺は警察様だぞ!敬語を使え!って、は?お前の口にヤシの実突っ込んで顎割ってやろうか!?(聖飢魔II)でしか無かった。警察がなんぼのもんじゃーい!!!

義理の娘とのジェシーとアントニオの関係が良いだけに本当に別れなくてはいけなくなってしまうラストが苦しかった。周りも号泣してるのを良いことに嗚咽漏らして泣いてしまった。喉から、んぎぃえ…ってな声出る己に引いた。

バッドエンドなんよ。希望を持ちたいけどほぼ無理やろ…でしかないバッドエンド。実母との唯一の思い出もあれでしかないし、誰も助けてくれないから自分でどうにかしてくるしか無かったアントニオを思うと本当にしんどい。助けてくれる弁護士との間には金の問題が降り注ぐし、なんかもう四面楚歌。

許されるなら私はアメリカに不法滞在してアントニオの歴代里親達を軒並み平手打ちした後、元夫の同僚の急所を蹴りあげて強制送還される前に颯爽と日本に舞い戻りたいと思った。ついでにアントニオにタトゥーのひとつも彫ってもらって「釣りはいらないぜ…」と料金の10倍くらいの金を握らせてやりたい。

どうしたって私は女なので出演陣の女性側の目線で見てしまったわけだけど、みんなそれぞれ辛い。1番しんどかったのは恐らく娘であるジェシーだろうな、実父からは(理由は描かれてなかったけど)見捨てられ、それがトラウマとなっており、一緒にいたいとひたすら願った愛する義父とは別れなればいけなくなる、って益々トラウマ深くなりそうだし今後に影響でそう。

母で妻もある彼女の気持ちも分かるんよ。愛があれば!って気持ちもちろんあるし二人の間の子も生まれたばかり、金は無いけど優しいんだもの、そんな簡単に割りきれんよな。でも嘘つかれてたのは後引くんじゃ。私も結構壮大な嘘つかれてた身だから分かるけど、心からの信頼ってのは出来なくなるよね、申し訳ないけど。

あと妻の母な。娘がたとえ優しくとも甲斐性なしな人と結婚して子ども作ってさらには永住権が無いと来たら、そりゃあ引き離そうとするし別れろと言うに決まっとる。この幸せを願った時に1歩引いて見れる親からすれば現実的に考えて一緒にいさせたくないだろうな。

なんかもう色々しんどいしめっちゃ泣いたしで感情揺さぶられまくった。エンドロールで流れた国外追放された人、される予定の人の数名の写真にも胸がえぐられたし、数万人がその対象ってのに「Why、アメリカンピーポー!!???」って叫びかけた。誰だよ、こんなガバガバな法律で里親制度始めたやつは。

個人的に映像の色味がすごく好きで、綺麗なんだけど切なかったり、不安なんだけど美しかったりと目を引く色使いが印象的だった。青の使い方が綺麗な作品、ほんと好き。

重たいテーマだし答えもないしバッドエンドだし希望もほぼ無いんだけど、とても良い作品だったのと深く考えさせられるテーマだったのでオススメしたい。オススメします。
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