ohassy

アステロイド・シティのohassyのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
3.8
さあさあ、ウェスアンダーソンの新作がやってきましたよ。
ここ数年コンスタントに発表してくれて嬉しい限り。
モノクロームの狭苦しい画面から一転、シネマサイズに広がり空と鉄錆のコントラストが鮮やかすぎる世界に変わった瞬間の感動が、今でも残っている。
ああ、やっぱりここはウェス・アンダーソン世界だ。

ここ数年、ウェス・アンダーソン的なものをよく見かけるようになった。
色味と構図を真似れば、それは結構うまくいく。
なにせネタもとの完成度がハンパないのだ、ちょっと寄せるだけでそれなりになる。
でもまあ、それだけだと思う。
みんなこっちを向いてるカットの、宇宙服の頭をつけた少年とか最高にウェス・アンダーソンだけど、ここまで大胆にレイアウトするのはなかなか難しい。

本作は、どこかからやってきてどこかに向かう人たちが、少しだけ立ち止まって自分を見つめ直す物語。
能天気な空気の中に強烈なアンチテーゼをふんだんに盛り込む姿勢に、アーティストの気骨を感じざるを得ない。
見た目が可愛らしすぎて忘れてしまうウェス・アンダーソン世界の真骨頂が、最もわかりやすく表現された作品だろう。
ブラックジョークと言っていい。
見た目の愛らしさと込められたテーマのギャップこそ、ウェス・アンダーソン作品の魅力だったんだ。

毎度のことながら、それぞれに哀しみを抱えたままアステロイド・シティにやってくる面々は皆魅力的で、キャラクター造形について誰1人適当に済ませていないことがありありと伝わってくる。

成り行きに身を委ね、その間に心の快復を図ろうとする大人たちには大いに共感する。
何か想定外で理不尽な事が起こっても、怒りを口にするよりは「困ったね」と達観することを覚えてしまった日々の僕らだ。
一方で世の中や運命などには屈しないとばかりに毒舌で罵る3人娘や、ずば抜けた知能で隠された事実を世界に暴露しようとする超秀才青年たちは、あきらめた大人たちとは対照的だ。
時に正しいとされる大人たちが作った秩序を、関係ないとばかりに叩き壊す。
銃撃が響きキノコ雲が立ち上る世界に閉じ込められた絶望的な世界にあって、そこにこそ希望があるのだと言わんばかりだ。
キャストは押し並べて最高だったが、3人娘と5人の青年たちはずば抜けてよかった。

もちろん無駄遣いとも言えるようなスターたちの出演はいつも楽しい。
誰が登場するのか?どんな話なのか?映画を観ながら驚きたいので、情報をなるべく入れないよう、スマホで見かけた時は目を背け、予告編の間は目を閉じ耳を塞ぐことでなんとか乗り切ることができた。
おかげで誰1人キャストを知ることなく、登場シーンでいちいち驚くことができた。
キービジュアルの構図がヒキなのもありがたいし、目が悪いのも今回は功を奏した形だ。
なので、その辺りはあまり触れずにおきたい。

どうして今回、舞台劇と舞台のメイキングという入れ子構造を取ったのかはよくわからないけれど、きっと少しでも遠くの話という印象を持たせたかったのかなと、少し思う。
これまでの作品も箱庭的な捉え方の作りをし続けたウェス・アンダーソンだったけれど、老練していく中でどんどんと遠ざけていきたくなる、俯瞰したくなるその気持ちは、演出の真似事のような仕事をしているとちょっとだけわかる気がする。
多分、真っ直ぐすぎる表現の恥ずかしさに耐えられないんだ。
ohassy

ohassy