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ヌーのコインロッカーは使用禁止のKUBOのレビュー・感想・評価

4.0
私は初めて10 ants の舞台を見たのが『ヌー』だったので、この映画化は心待ちにしていた。

10 ants は上西雄大率いる演劇集団かつ映像集団で、舞台で上演したものを映画化したり、映画として制作したものを舞台版として上演したり、同じスタッフ&キャストで演劇と映画の両方を生み出している。

そして、この『ヌーのコインロッカーは使用禁止』は、傑作『ひとくず』と並んで、ハンカチなしには見ることのできない感動作だ。

上西雄大という俳優は良い意味で高倉健のようにいつもいっしょ。いや、高倉健のようにカッコよくはないんだ。生きるのに不器用だが情に熱い男。本作の「カーブ」では刑務所から出所したばかりで、妻子に愛想を尽かされたダメ男を演じている。

その「カーブ」が知的障害者の「ヌー」(古川藍)と出会うところから物語は始まる。

この作品では女優・古川藍を見てほしい。本人は「憑依型ではない」と言っていたが、難しい知的障害児の役を、しかもかわいく見えなければいけないという微妙な匙加減で演じるのは並大抵の演技力で出来ることではない。舞台版で見て以来数年ぶりの古川・ヌーは、本当に可愛くて愛おしくて切なくて、上映後にお話しした女優さんではなくて、もう「ヌー」にしか見えないのだ。

そして、そのヌーの切ない人生に上西雄大演じるカーブの人生が交差して、これぞ 10 ants という涙と人情の物語となるのだ。

上西雄大の演じる男は、社会で言ったら負け組で、肝心なところで流されるし、金が絡めばヌーを利用しようとしたりもするし、ズルいし、弱いし、カッコ悪いんだけど、自分に正直で、口は悪くても優しいし、最後の最後には自分を貫いてやっぱりカッコいい!

そして、上西自身は毎回同じような負け犬ヒーローを演じながら、本作でヌーを演じている古川藍と徳竹未夏の10 ants二枚看板女優が作品毎に全く違う役を演じて、それぞれの作品を全く違った色にしているのだ。

私の大好きな『ヌーのコインロッカーは使用禁止』。映画を見て気に入ったら、次はぜひ舞台版も見てほしい。舞台はまた違う笑いと熱量があるから。オススメです。
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