はぐれ

パワー・オブ・ザ・ドッグのはぐれのレビュー・感想・評価

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
4.1
冒頭から旧来型の男性的価値観を押し付けてくるカンバーバッチのパワープレイを見せつけられて「これにずっと付き合わなきゃいけないの?😟」って辟易していたんだけど、物語が進むにつれて監督の真意はそんなところにはなかったことを思い知らされる。

フォードやホークスなどが作り上げてきた強権的で保守的な男性社会の象徴であった西部劇。その土俵の上で映画史に残る革命がカンピオンの手によって繊細かつ大胆に遂行される。本当の男らしさとは何なのか?良き伴侶とは、家族のあるべき姿とは?その境界線がジワリジワリと音も立てずになくなっていく。

キルスティン・ダンスト演じるヒロインが草原で涙ながらに夫婦でダンスをするシーンと知事の前で不得意なピアノ演奏を強要させられるシーンの対比ね。これ以上の人格者はいないと思っていた夫から突然受ける死刑宣告のような仕打ち。人物への評価や価値基準なんていかに脆くて崩れやすいものか。

そしてその体現者となるジェシー・プレモンス演じるヒロインの息子。最初は鈍くさい所謂「女々しい」と評されるただの愚息かな?と思っていたけどこれが見事に裏切られる。タバコを叔父と回し吸いするシーンはどんな激しい濡れ場よりもクソエロい。例えは悪いかもだけど、カンバーバッチが先の大戦で活躍したマシンガンや戦車のような凶暴さだとしたら、プレモンスはまさに今世界中で猛威を振るうウィルスのような凶暴性である。どちらがよりリアルでより怖いかは明白だよね。

ジェンダーも世代も宗教観も関係ない。最後に残ったのはそれらの垣根がなくなった先に待ち受けている個としての恐怖だ。
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