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パワー・オブ・ザ・ドッグのYOKのレビュー・感想・評価

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
3.8
先日、原作本を頂いて読んでから観ようと思ったんだけど、逆にした。

あらすじを読んで、なんで主人公(牧場主のフィル)が弟の新妻とその息子に対して敵意を剥き出しにしていくのか気になるやん。ってシンプルに気になった。

カーボーイみたいな格好をしている人もいればスーツを着ている人もいて、(全く詳しくないけど)西部の開拓時代的な雰囲気を感じた。それでいてどこか牧歌的な、というかなんというか。まぁ、舞台の自然が美しいこと。

フィルと弟のジョージがそこまで仲良くないのかなぁって感じがあるというか、フィルの威圧感が強めでジョージが気圧されているように見えた。ジョージの新妻となるローズも弱々しげで、その息子のピーターは芯は強そうだけど線が細い。フィルの暴力的な雰囲気が際立つ、良い配役だなぁって思った。

始終フィルが弟に執着しているのかしつこく絡んでいく様や、やたらと「男らしく」とか言っている感じがめっちゃ気になる感じに作られていて、あらすじにある『自分の中にある愛』っての、もしかして弟に対する家族愛を超えた的なものなのかなぁ?なんて考えたりして観れた。

フィルがマジで粗野で粗暴なので馬に対して暴力振るうのとか、頭ぶっ叩いて辞めさせたくてしょうがなかった。動物に当たるバカタレはお前か!えいえい!(100倍返しされそう)

フィルがあまりにも暴力的なのでジョージがめちゃくちゃ優しいいい男に見えるのだけど、こんな兄ちゃんがいるんじゃ結婚するの嫌だなぁって。離れて暮らせるならまだしも……ううん。

ところがどっこい、後半のフィルが粗暴なだけでなく繊細で、なにかに脅えているというか隠している雰囲気が出てくる。この辺の転換やカンバーバッチの演技は流石。常に漂う哀愁も、何かあるんだろうなって伝えてくる。

思った以上にどストレートな映画で、途中から「このキャラはこうなんだろうな」とか「こうなるんだろうな」ってのが読めた。ので、展開的に驚きはほぼなし。

けど、見せない演出とか空気から読みとって下さいな描写が多々あったので分かりにくさもあったかもしれない。ピーターくんの成長が(良くも悪くも)目覚しい。

うーんなんだかなぁってまま終わってしまったので、別途で動画が上がっていた「舞台裏」的なものを見たら何となくわかった。やっぱ本を読んでから観た方がよかったかなー。失敗したかもしれない…。

フィルが漂わせる恐怖は自分自身の真実を隠すためのベールだったんだなってのと、ピーターのしでかす事の目的と冷たさが感じ取れればそれで良い映画なのかもしれない。

映画の世界観や役者の作り出すキャラクター、舞台となる自然など好きなところは沢山あったものの、結局何を軸にして描きたかったのか分かりにくくて、見終えたあとの満足感とかは低くなってしまった印象。

性的マイノリティーとしての葛藤や生きづらさ、時代的に開けっぴろげに出来なかったことや、そもそもそうである自分への嫌悪感などをもう少し全面的に荒々しく描いてくれた方が自分的には好みだったかも。

思ったよりフィルが繊細な人だったので、小説ではどんな感じなのかな。ちょいちょいわからんところもあった(やたらと縄を編み上げることにこだわったり)ので、その辺も本を読んで見解を深めたいところ。のんびり読む。

肝心の「パワー・オブ・ザ・ドッグ」の意味も今ひとつわからなかった。なんてこった。
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