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パワー・オブ・ザ・ドッグのHSMTのレビュー・感想・評価

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
4.2
俺の感情を理解してくれるお前という像を作り上げ、こうであってほしいと押し付けてしまう、相手もそれを受け入れてくれている…という願望。
本編で引用される旧約聖書には屈強な男性を打ち負かす少年の物語があって、それを連想させるお話でした。
生き方に縛られる主人公、常に横暴で支配的な態度を取ろうとするが、映像では彼の何かやるせない行き場のない感情を表現した手の動きや眼差しを常に映す。
弟の妻を陰湿に脅かす姿は恐ろしいというよりも痛々しく、あるがままに生きられない苦しさ、成就しない感情を汲んだとしても許容できるものではなかったですね。
ただ、本来の自分の持つ感情を向けた先の相手もちょっとやべー奴だったのかもしれない、伏線はかなりあった。

大らかにあるがままに生きられる弟、できないときはできないと言ってもいい、涙を流してもいい、愛する人とのささやかな幸せ。
ああいう血縁故に気が付けない配偶者の隠れ我慢、もどかしいし苛立つけどどの夫婦にもあり得るものなんだと思います。夫婦故に隠してしまう辛さや気が付けない鈍感さ。そういうのがあっても一緒にいられるから安らげる瞬間があるわけで、物語が終わっても2人は幸せであってほしいなと思いました。(ファーゴで悲壮な末路を辿った2人でもあるので)

成就できないジェンダーの悩みを抱えていたとしても、人間的な問題を持つ人にはそれ相応の因果が巡る…という後味でしたね。
本音は明確なセリフでなく情景や衣装、背景で語り、2回目3回目で理解できる構造になってる作品、好きです。
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